笑う赤

 条件反射で声がした方向を追うと、こちらに飛んでくる赤いはかまの小さい少女がいた。



「あれ、ペリティールじゃん。どうしたの?」



 ジャージーが目を丸くする。



 ペリティールはジャージーの隣まで飛んでくると、ポンッという音とともに、姿を一瞬で人間の大きさにしてその場に着地した。



 それでやっと彼女の姿を見ることができたユーリが、少しだけ驚いた顔をする。



「なんか、順調すぎてつまんなーい!! もうちょっと手こずると思って、全力でお邪魔したのに!」



 自分の想像と展開が違いすぎたらしく、ペリティールは頬を膨らませて、実の脇腹をぽかぽかと叩いた。



「いやいや、こっちだって遊びじゃないんだから。」



 そんなことで文句を言われても、こっちはユーリの体調のこともあって、最短でゴールを目指したいのだ。

 嫌でも全力を出して、試練を乗り切ろうとするに決まっているではないか。



「むーっ! 実が優秀すぎてつまんない。困らせがいが全然ないのー!!」

「今で十分困ってるから!」



 実はペリティールに負けない勢いで叫ぶ。



 勘弁してくれ。

 困らせがいがないなんて言うが、こちらはこの遊びを振られた時点で、体力も気力も尽きそうなくらい疲れていたのだ。



 困るには十分すぎる状況だったというのに、彼女はなんてことを言い出すのだ。



「えー、全然困ってるように見えなかったもん。」

「やるしかないんだから、いつまでも困ったなぁって顔してらんないでしょ。」



「むむむ、そんなもの?」

「そんなものなの。」



 強く言い切ると、ペリティールはつまらなそうに頬を膨らませる。



「仕方ないなぁ……」



 むくれた表情のまま実から距離を置いたペリティールは、何かを悩むように一人でうなっている。



 このまま彼女が自分に会った証をくれるとは考えにくいし、きっと自分の持ち場に戻ろうかどうかと考えているのだろう。

 それか、ここから鬼ごっこでも始めるとでも言い出すのか。



 黙ってペリティールの出方をうかがっていると、彼女はふとこちらに目を向けた。

 そして。



「じゃあ、やるしかないんだから――― もっと困らせてもいいよね?」



 そう言って、にっこりと笑ったのだ。

 次の瞬間、自分の背後でものすごい音が響く。



「うわっ!?」



 耳朶じだを打ったのは、ユーリの叫び声。



「!?」



 慌てて後ろを振り向く実。



 そこには、突如地面から生えてきた植物のつたにがんじがらめにされたユーリの姿があった。



「なっ…」

「は~い、さぁ大変。ここで、お友達は没収で~す!」



 ペリティールはジャージーの腕を引いてユーリの自由を奪った蔦に駆け寄り、悪戯いたずらを楽しむ子供のように無邪気な笑顔をたたえた。



「うんうん、その顔が見たかったんだよねぇ。やっぱ、ククルルに相談してみてよかったぁ。」



 想定外の展開に動揺する実にくすくすと笑い声をあげていたペリティールは、ご機嫌な様子のまま人差し指を頭上高く掲げた。



「ではでは、ここからは一気に難易度をアップしましょう! お友達を助けたかったら、五分以内に私の所まで来てみてくださ~い!! それでは!」



 実に反論させる隙を与えず、ペリティールはジャージーとユーリを連れて、その場から消えてしまう。



 残されたのは、黄色い花畑に残されたのは一人立ち尽くす実と、風の中に紛れて微かに響くペリティールの笑い声だけだった。


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