確信の根拠

 セツの能力を打破できる根拠。

 それは―――



「実がいれば大丈夫だ。多分だけど、実はあいつの糸が見えてる。」

「えっ……本当か、それ!?」



 驚愕の色を浮かべる尚希に、拓也はしっかりと頷きを返した。



『だ、だって、なんか糸が…っ』



 危うく矢で射抜かれそうになった時、激昂した自分に実はそう言っていた。



 ルルの能力の秘密を見抜いた実のことだから、あの時もセツの能力の鍵を握る糸を捉えていたのかもしれない。



 そういえば、実のその発言を受けてから、セツが妙に慌て出していたような気がする。



 実がルルの能力を見破った経緯も含めて話をすると、尚希はほっとしたように肩を落とした。



「そりゃよかった。ひとまず安心だな。じゃあ、より厄介なのは弓を持ってた子の方か。あの子はどうやら、実が〝鍵〟だって勘付いてるっぽいからな…。あの正確さで見えない場所から攻撃されたらひとたまりもないし、先に動きを封じたいとこだけど……」



「ってか、あいつ……実を追っかけて一緒に落ちなかったか?」

「そういえば……オレたちとは別の場所に落とされたか…?」



「………」

「………」



 なんだか、嫌な予感がする。

 拓也と尚希が思わず顔を見合わせたところで―――



「んー……あっ!」



 ジャージーがぽん、と手を叩いた。



「そういえば、実と一緒にユーリって子がいたっけ。なんか、ペリティールが間違えて一緒に落としちゃったって。」



 嫌な予感が確信に変わる瞬間だった。



「はあぁっ!? 嘘だろ!? あいつ、よりによって実と一緒にいるのかよ!!」



 拓也は勢いよく椅子から立ち上がる。



 なんてことだ。

 あれだけ容赦なく実を攻撃していた人間だ。

 隙あらば、実を殺そうとするに決まっている。



 そんな相手に実が油断するとも思えないが、それでも不安と怒りが急激に膨らんでいってしまう。



 自分を殺そうとした人間と四六時中一緒だなんて。

 ようやく前向きになってきた実に、なんという苦行をいているのだ。



「くっそ……やっぱどうにかして、ここを出ないと…っ」



 奥歯を噛み締める拓也に対し。



「あらら、それは意外だったな。」



 尚希は割と冷静なままだった。



「ジャージー。ちなみに、実とその子はまだ一緒にいるの?」

「うーん、ちょっと待ってね。」



 尚希の質問を受けたジャージーはこめかみに指を当てて、何かを念じるように目を閉じた。



「……お、見えた見えた。うん、一緒にいるね。なんか、二人でお話し中みたい。」

「そっか。今って、オレたちがここに入ってからどのくらい経ってる?」



「えっとね、多分半日は経ってるかな? もうじきお昼だもん。」

「ふむふむ、なるほど。」



 ジャージーから情報を仕入れた尚希は、満足そうに頬を緩めた。

 そして、拓也にこう声をかける。



「拓也。実なら大丈夫だ。」



 それは、やけに自信に満ちた声だった。



「なんでそう言い切れるんだよ。」



 拓也は低く問う。



「だってユーリって子は、実と半日以上も一緒にいるんだ。昨日の内に殺せなかったなら、その子にはもう実を殺せないよ。」



「だから、なんでそう言い切れるんだって。」



 苛立ちをあらわにして、再度同じ問いを投げかける拓也。



 これで〝なんとなく〟とか適当なことを述べるようなら、尚希だろうと殴り飛ばしてやる。



 拓也は、今すぐにでもここを飛び出したい衝動をこらえながら答えを待つ。

 そんな拓也に、尚希は爽やかな笑顔を浮かべて断言した。



「だって、実にはそれだけの魅力があるだろ?」



 しまいには自信たっぷりにウインクをされ、拓也はきょとんとしてまばたきを繰り返した。



 ぐうの音も出ない。

 何を言われても言い返す気でいたのに、不覚にも納得してしまったではないか。



 確かに実なら、敵すらも味方に変えてしまいそうだと。



「……馬鹿じゃねぇの。」



 なんだか素直に認めるのはしゃくだったので、拓也はそんな一言を投げると、肩の力を抜いて苦笑した。


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