父の行方
ルルの能力については口外しない。
そういう旨を伝える実の言葉に、ルルは何故かひどく驚いた顔をした。
「……いいのか?」
「え…? 逆に、嫌だって言う理由がどこにあるんですか?」
純粋に疑問に思ってしまい、思わずそう訊ねてしまう。
すると、ルルはさらに目を大きくして口をあんぐりと開けた。
「あー…。なんつーか、その……変に警戒したオレが、馬鹿みてぇじゃねぇか。」
「………?」
「ああもう! レイレン!」
髪を大きく掻き回し、ルルは勢いよく立ち上がってレイレンを振り仰いだ。
「欲しい情報はなんだ? この小僧に免じて、特別にタダで情報を流してやる。」
「え!? ほんとに!?」
レイレンがきらりと両目を輝かせる。
「ルルがそんなこと言ってくれるなんて、実に弱みでも握られちゃったの?」
「似たようなもんだ。」
「あ、そう。ふーん、そうなんだぁ。むふふふふ……」
途端に、おもちゃを見つけたかのような笑い方をするレイレン。
「実、だったか? ああいう大人にだけはなるなよ。」
「ずっと昔から肝に銘じてるんで、そこだけは大丈夫です。」
「そりゃ、いい心がけだ。日頃の苦労が
「まあ、俺が唯一嫌いだと言い切れる奴なんで。そう言うルルさんも、相当こいつに振り回されてますよね。」
「まあな。いい金を落としてくれる上客ではあるんだが、あれじゃあなぁ……」
「心中お察しします。」
「あー、何二人でこそこそ話してるのさー。仲良くなるの、早くなーい?」
まるで空気を読まないレイレンの発言。
実とルルは、揃って肩を落とした。
「レイレン、お前やっぱ出てけ。実だけに情報をやるわ。」
「そんな! いくら実に弱み握られたからって、そこまで!?」
「いや。弱みうんぬんの前に、こいつとは色んな意味で同士っぽいから、ちょっと手厚く構ってやった方がいい気がしてよ。」
「俺も共通の敵がいるからか、ルルさんは他人のような気がしない。」
「共通の敵って、まさか僕!? そんなつれないこと言わないで―――」
実の方へと手を伸ばそうとしたレイレンの動きが、ピタリと止まる。
それは、彼の喉元にぴったりと添えられた鋭い
「これ以上、場をややこしくするな。話が先に進まないだろ。いつまで尚希を外で待たせる気だよ。」
いつの間にか槍を構えていた拓也が、ドスの
音もなく間に入ってきた拓也に、ルルがパチパチとまばたきを繰り返した。
「おお、もう一人いたのか。気付かなくて悪かったな。えっと……」
「この子は拓也君っていってね、実の従順なワンコだよ!」
「だから犬じゃないっての! 拓也! 一応、まだ斬らないでね!?」
「……手が滑ったらごめん。」
「それって振りだよね!? うわーん!」
「泣くくらいなら、初めっからそんなこと言うな! 死にたいのか!?」
殺意ダダ漏れの拓也に焦る実。
それらを見ても、けろっとしてふざけているレイレン。
そんな至っていつもの光景を目の当たりにし、何も知らないルルは一人頬をひきつらせていた。
「お前って、相変わらず嫌われるのが得意なのな……」
「それも一つの愛情ってやつ?」
「寝言は寝てから言え。おっと……拓也の言うとおり、このままじゃ
幸いにも、ルルが話を本筋に戻してくれて助かった。
実は、レイレンが無駄口を叩く前に先陣を切ることにした。
「さっき、父さんが来てたって言ったよね? どこに行ったか分かる? 父さんが来てるらしいって聞いたからここまで来たんだけど、島のどこにいるかまでは分からなくて。」
レイレンがルルに何を訊きたかったのかは知らないが、ひとまずは自分の大きな疑問をぶつける。
「ああ、あいつなら……」
答えはあっさり返ってきた。
「なんか、この島の聖域に用があるとか言ってたぜ。用件までは、オレも詳しくは聞かなかったがな。この島の聖域は、島の中心にある山の頂上付近に広がってる。とりあえず、頂上を目指せば捕まるんじゃねぇか?」
「聖域……」
「えー、エリオスの聴覚を盗めないのー?」
レイレンがすかさず横槍を入れてくる。
すると、顔を青くしたルルがぶんぶんと首を横に振った。
「誰があいつの聴覚なんかと同調するか! 一度それで痛い目見てんだよ、こっちは!! もう二度と、同じ過ちは繰り返さねぇ。触らぬ神に祟りなしだ。」
一体、父との間に何があったのだろう。
気にはなったが、今はそれを聞いている時間も惜しい。
「ルルさん、ありがとうございます! 拓也、行こう!」
「はいよ。」
聞くことを聞いて満足した実に苦笑し、拓也はゆっくりとレイレンの首から槍を下ろした。
拓也と二人で並んで、部屋を出ようとする実。
その後ろ姿に―――
「じゃあ、二人ともいってらっしゃーい。」
そんな陽気な声がかけられた。
「え…?」
全く予想していなかった展開に、実は思わず足を止めてしまった。
「レイレン、来ないの?」
レイレンのことだから、父の行方が掴めたとなれば、自分以上の暴走ぶりを見せると思ったのに。
そんな気持ちから、実は素直にそう訊ねてしまった。
この展開には、さすがの拓也も実と同じように目を丸くしている。
「一緒に行きたいのは山々なんだけどー…。僕、地球にいてサボってた分、この辺の精霊たちをなだめに行かなきゃいけないんだよね。それでまだルルに聞かなきゃいけないこともあるから、先に行ってて。できれば合流する。」
「そ、そうなんだ……分かった。」
てっきり父に会いたくて一緒についてきたと思っていたのだが、それとは別にちゃんとした目的があったとは意外だ。
かなり失礼な感想を抱きつつ、実は拓也と二人でルルの部屋を後にした。
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