特化型とは

「記憶違いなら申し訳ないけど、ここって特化型が生まれやすい地域?」

「とっか、がた…?」



 聞いたことのない単語が尚希の口から飛び出し、実は首を傾げる。



「そのとおり。さすがはキース、博識だねぇ。」

「やっぱりか。知り合いに、そんな人がいた気がしてさ。なら、そういう暮らし方になるのも仕方ないかもな。」



 頷いて尚希の言葉を肯定したレイレンに、尚希の方もすっきり納得した顔をする。



 どうやら、この中で状況を理解していないのは自分だけのようだ。



「拓也、特化型って何?」



 レイレンと尚希は二人で話し込んでしまったので、隣の拓也に疑問をぶつけてみる。



「特化型っていうのは、特殊な魔力の使い方ができる人たちの総称だ。」



 さらりとこちらの疑問に答えてくれる拓也。



 さすがだ。

 本の虫である拓也なら知っているだろうと思ったが、その期待を裏切らない知識量である。



「おれたちみたいに、自分の魔力を自分が思うように使えるタイプは、特化型に対して総合型って呼ばれてるんだけど……」



「つまり特化型は、特定の技術にしか魔力を使えないってこと?」

「そのとおり。」



 早くも答えを見出だした実に頷き、拓也はさらに深い話を論じる。



「単純に聞くだけなら、特化型は総合型に劣っているように思えるかもしれないな。だけど、実際はそうでもないんだ。総合型はある程度の魔法を自由に使える分、その出力量はそれなりに平均化される。全力を出してるつもりでも、その裏ではいつでも他の魔法が使えるように、一定量の魔力を温存するようになってるんだ。」



「ほえぇ…。でも、言われてみると納得だね。そのシステムがなきゃ、魔法の同時行使なんてできるわけないし。」



「そう。魔法の多重行使と魔力温存システムの関係性には、これまた深い研究があるんだけど、今は脱線するからやめておこう。」



 地球ではいつも、教えらてもらう側だったからだろうか。

 ホームで得意分野を語る拓也は、いつになく饒舌じょうぜうに見えた。



「それに対して特化型は、裏で温存する魔力が必要ない分、自分が使える魔法にありったけの魔力を込めることができる。例えば炎攻撃しかできない特化型が魔法を行使した場合、その威力は下手すれば、四大芯柱が使う精霊魔法を超えるかもしれない。」



「な、なるほど……それは怖いね。」



 精霊魔法を超える威力なんて、一体いくつの山や街が更地さらちになるレベルなのだろう。

 もはや災害級ではないか。



「まあ、これは一つの例えだ。文献を読んだ限り、攻撃系の能力を持った特化型は少ないらしい。暗示や透視、広範囲の集音とか、そういう諜報に使える能力がほとんどだ。」



「あんまり名前を出したくはないけど、サリアムの紅炎こうえんの目を覚えてるか?」



「はい、もちろん。」



 話に割り込んできた尚希に問われ、実はこくりと頷く。



 星を散らしたようにきらめく、赤い瞳。



 一度は、あの目の餌食になりかけたのだ。

 忘れるはずもない。



「あいつの目は、特化型の一つなんだよ。まあ、あいつの場合は暗示と炎魔法の両刀使いだから、特化型の中でもかなり特殊だけどな。実を連れ去ろうとした時に移動魔法が使えてたのは、セリシア様に他の魔法を補ってもらってたからだろう。」



 なるほど。

 確か聞いた話によると、サリアムは暗示系統の魔法において、右に出る者はいないというほどの実力者だったはず。



「そうなんだ。少しイメージしやすくなった。」



 具体例を出されたことで、特化型に対する理解がしやすくなり、実はうんうんと頷く。

 それを見ながら、拓也がまた口を開いた。



「ただ、いくら攻撃的な能力が少ないとはいえ、その能力もおれらの想像を超える使い方をされたら、ひとたまりもない。それに特化型は、自分から申告でもしてこない限り、それと分からないのも厄介だ。」



「……となると、仮にこの会話を未知の能力で盗み聞きされてたとしても、俺たちには全く感知できない可能性が高いってことか。」



「そういうことだ。過去の犯罪履歴を洗ってみると、特化型の能力で探知魔法や結界をすり抜けられたって事例もある。」



「はあぁ…。なんとなく分かってきた。」



 というか、あなたは犯罪履歴の記録まで読破しているので?



 そんなツッコミは、今は心にしまっておくべきか。



「全体的に評価するならパッとしなくても、特定の方面においては無敵レベルの技術を持つなら、それを放っておかない連中は腐るほどいる。尚希さんがそういう暮らし方になるのも仕方ないって言ったのは、そういうことですね?」



 断定して問いかけると、尚希は「そうだ」と頷いて、それを肯定した。



「安定の優秀さだな。これだけの説明で、すぐに事情を察するとは。」

「まあ、実も似たような経験をしてそうだもんね。今の実の能力値って、特化型も真っ青なレベルっぽいし。」



「………」



 半分おふざけ口調のレイレンの言葉。

 それを一概に否定できないのだから複雑だ。



 実だけではなく、拓也や尚希も口をへの字にしてコメントを控えるしかなかった。



「今から向かうのは、聴力特化の人なんだ。自分の意思で触れた相手なら、たった一回の接触だけで相手の聴覚と同調できるようになるんだって。言わば、盗聴のプロってやつ?」



「それだけの説明で、やばいにおいしかしねぇ……」



 真っ先に顔を歪めたのは拓也である。

 そしてそれに同意するように、レイレンは深く頷く。



「同時に複数の聴覚とは同調できない。聴覚の共有相手の情報は、できうる限り正確に把握する必要があるっていう制限はあるらしいけど、その条件さえクリアすれば、聴覚の同調に距離の制限はないらしいよ。相手には自分の聴覚が同調されないから、自分の情報が漏れることはまずない。盗聴に気付かれることも皆無。その能力がものを言って、今は情報屋として、各方面からの信頼が厚いんだそうな。」



「うわ、ものすごく厄介……」



 浮かんだ感想はそれだった。

 拓也があんな顔をするわけですよ。



 レイレンは渋い顔をする実を見つめて、くすくすと笑う。



「そう。だからその人と会うに際して、今後のプライベートなんて半分ないものだと覚悟しといて。」

「えぇー…。オレ、最高のカモじゃんか。」



 レイレンの言葉を聞き、尚希が難しそうな表情で口元をひきつらせた。



 確かに、ニューヴェル次期領主の聴覚情報を掴めたとなれば、情報屋としてはかなり大きな収穫だろう。



 そうこうしているうちに……



「こんにちはー、お久しぶりでーす!!」



 レイレンが、とある建物の扉を勢いよく開いてしまった。



「尚希、どうする?」

「んー……気になるけど、遠慮しとく。」



 念のためなのか、尚希はすでに建物の向かい側の道へと避難していた。



「分かった。」

「俺も、その方がいいと思います。」



 拓也と実はそれぞれそう返し、レイレンを追って建物の中へと入ることにした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る