さっそくのお説教

「まったく! お前って奴は!!」



 帰りのために尚希が待機させていた船に乗り込んでしばらく。

 何事もなく沖に出られてほっとしたところで、拓也の怒号がとどろいた。



「そのお人好しぶりには、ほとほと呆れてるぞ。こういう無駄なお節介は、金輪際するな! いらない心配だと分かってても、ひやひやするから!!」



「だ、だって! あのままじゃ、ユーリがあんまりにも……」



「そういう言葉は、自分の身も心も一人前に守れるようになってから吐け! なんでお前はいっつも、自分より他人を優先するかな!?」



「ま、まあまあ。結果的に追っ手もかかってないみたいだし、俺は元気だからいいじゃん。」



 胸ぐらを掴み上げられ、実は冷や汗を浮かべながら拓也と自分の間で両手を掲げる。

 それに対し、拓也は大きな溜め息を吐いた。



「本当にお前は…っ。尚希、お前からも何か言ってやれよ。このままじゃ、おれの我慢がもたねぇっての。」



「んー?」



 拓也に助けを求められ、優雅に紅茶を飲んでいた尚希はちらりとこちらを見る。

 当然、尚希にも控えめにたしなめられる未来を想像していたのだが……



「別に、オレは今さら文句言わないよ。」



 意外にも、尚希は拓也に加勢しなかった。



「実のその性格は、今に始まったことじゃないしな。それに、実の人を見る目には光るものがある。オレは実が助けたいと思った相手なら、信用するに足りると思ってるよ。オレたちが今費やした労力は、無駄にならないさ。」



「尚希さん……」

「はあ!?」



 実が目を丸くし、拓也が素っ頓狂な声をあげる。



「お前がそんなことを言ったら、実のお人好しに歯止めがかなくなるじゃんかよ!」



「そういう実に付き合うって決めたのは、オレたちだろ。いいじゃんか。拓也も、容認して受け流すって能力を鍛える、いい機会になるだろうしな。」



「お前……さらりと人が気にしてることを…っ」



 拓也が言葉につまると、尚希がくすくすと笑い声を漏らす。



(気にしてたんだ……)



 そんな感想を抱きつつも、それを声に出して言おうものなら火に油を注ぎかねないので、口をつぐむ実。



「それより。……彼、どうするつもりだ? ひとまず、一緒に連れてきちゃったけど。」



 尚希が視線で示した先には、窓から海を眺めているユーリがいる。



「あ…」



 実はぎくりと肩を震わせた。



 とりあえず追っ手が来ないかと警戒するのを優先して、ユーリのことをすっかり後回しにしてしまっていた。



「………」



 尚希は黙ったまま、実を促す。



〝今は、ここで喧嘩をしている場合じゃないだろう?〟



 尚希にそう目で訴えられ、実は一つ頷いてそっとユーリに近付いた。



 島の方向をじっと見つめるユーリの様子がどこか寂しげで、なんとなく声をかけづらい。



「あの……ユーリ?」



 意を決して呼びかけると。



「…………一つ、訊いてもいいか?」



 こちらを向かないまま、ユーリが静かに口を開いた。


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