はためく蝶の死骸


 ルーガルーオンラインのグラフィックは世界一と言われるほどだ。そこら辺で死んでいる蝶の死骸がひらひらとはためいている。そんなところまで再現しなくていいのに、とアンは思った。遠くで巨大な土煙が上がる。第二番が暴れているのだ。その余波がこちらにまで届く、近くにいるというか隣にいついている第六番が話しかけて来る。

「派手にやってるわね、獣王に逆らえない憂さ晴らしかしら」

「あの」

「なに?」

「どうしてついてくるんですか?」

 自分の髪の毛をくるくると弄んで第六番の女性はアンに返答する。

「ほら、私の異能って戦闘向きじゃないし?」

「ボディーガードでもしろと?」

「男の子なら本望でしょ?」

「俺、リアルじゃ女なんですけど」

 絶対分かってて言っている、とアンは思った。だが第六番は気にした風でもなく、とある方向を指す。

「来たわよ」

 剣が一閃、それを間一髪のところでかわす、こちらも剣を抜く。

「見つけたぜターゲット!!」

「聞いて下さい!! 俺はPCで――」

「うるせぇ! 人狼は皆そう言うんだよ!」

 仕方なくアンは人外獣理第一番を詠唱する。多重加速バフ。高速での剣筋、目にも留まらぬ速さでそのPCを斬る。HPゲージが一気に減り、零になる。

 罪悪感を覚えながら、残り時間を確認する。


 ――残り二十三時間。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る