碑文の再解釈


 ルーガルーオンラインver2.0にて初のレイドイベントが開催される事になった。PCの一人、アンは友人のセインと共にゲーム内の活気に身を任せていた。

「俺、レイドイベントなんて初めてだ!」

「思いっきり楽しんでいけよ! これは狩りだぜ!」

 人外獣理の世界の中心にある町「ジェヴォーダン」にて二人はレイドイベントへの参加登録をした、そこでアンにアイテムアイコンがポップアップする。

(……なんだろ?)

 アイテムボックスを開く。すると、そこには「碑文:其の壱」という入手した覚えのないアイテムが入っていた。説明欄を開く。


 喰らえ、喰らえ、喰らえ。

 生とは、この世に産まれた者に課される絶対の摂理である。

 死とは、逃れられぬカルマである。

 故に――

 ――お前は何を欲する。

 獣王よ、私は速さを欲します。

 死すら追い付く事の出来ない絶対的な速さを。

 全てを喰らいつくし、この世に顕現せよ人外獣理第一番。

 疾走せよ我が豪脚


 情報欄にERRORが大量に表示される。真横で見ていたセインが心配そうに声をかける。

「おい大丈夫か――」

 しかし、その声が届く前にアンは転移した。


 ――――――


 寂れた古城、そこには七人のPCが集められていた。玉座に座るのは獅子の頭を持った獣人、ことルーガルーオンライン、人外獣理の世界ではそれは大きな意味を持つ。

「獣、王?」

「これより碑文の再解釈を開始する。人間よ、これはお前達が始めた事象だ」

「何言ってやがるテメェ!」

 PCの一人が獣王に剣で以て斬りかかる。しかし。

「ひれ伏せ」

 その一言でそのPCは地面に倒れ込んでしまった。

「クソが……!」

 獣王はそれを一瞥する事もなく、続ける。

「お前達はただ人間を狩ればいい。己が身を守りたければ、な」

「あ、あの!」

 獣王は視線をびくとも動かさない。

「メメントってPCを知りませんか!?」

「おい、そいつNPCだろ、質問なんかしたって――」

 すると獣王は突然、呻いて胸部を押さえた。

「だ、大丈夫ですか!?」

「古傷が痛んだだけだ……知りたくば生き残れ、このレイドイベントを。お前達は狩る側であり、狩られる側でもあるのだから」

 こうして第一回レイドイベント「碑文の再解釈」が開始された。


 ――終了まで残り二十三時間五十九分

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る