第43話 魔獣少女、暴走

「ビースト・クロス」


 魔獣少女が変身した。ビキニアーマーである。朱と白を基調とした池尻イケジリと違い、神主の袴のような白と青をベースにした水着だ。


「テメエだけは、絶対に許さねえ!」


 ドラゴン型魔獣少女スカディを前に、バロール先輩はわたしからムリヤリ身体の自由を奪う。


「どこを見ているです? あなたの相手は――」


 スカディを守ろうとしてか、ケツアルカトルがわたしの前に立ちふさがった。


「邪魔だ!」


 相手と目線を合わせようともしないで、バロール先輩は抜刀する。一瞬で、ケツアルカトルを切り裂いた。


 魔獣少女巫女の身体から、ケツアルカトルが消滅する。


「が、は」と、巫女の池尻が悶絶した。


 人間に害はないとはいえ、直接刀を通された肉体はしばらく硬直したままだ。


「仇は取ります、池尻。休みなさい。氷皇ひょうおう高校生徒会長、竜崎リュウザキ、参る!」


 竜崎と名乗る魔獣少女も、剣を出してきた。日本刀ではなく、竹刀だ。


「安心しな。次はテメエだ!」


 バロール先輩が、抜身の刀を構えて迫る。


「ジャ!」


 これまで出したことのない超音速で、刀を振った。


「ちい!」


 相手は、氷のウロコで覆った腕で防ぐ。


 今まで力を抑え込んでいたのだろう。その分、動きが鮮やかだ。わたしの肉体をフル活用している。


 わたし自身も、動きに耐えられていた。イヴキさんを倒したことで、わたしの戦闘力が飛躍的に上がっているのか。今までできなかった動きが、可能になっている。


 だが、相手も強い。剣道経験者なのか、防ぎ方も慣れていた。防御に徹しているが、反撃の機会を伺っているのがわかる。


「ヤロウ、おとなしく死ね!」


 今のバロール先輩は、野性味があふれていた。父が昔見た、時代劇映画の主人公のようだ。保護対象の尼さんから、主人公は「あなたは抜身の刀のようだ」と指摘される。本当によい刀は、鞘に収まっていると。


「なんという強さ。そんな強さを持ちながら、なんの野心も持たないなんて」

「野心ならある。復讐だ! なんでヘカトンケイルを殺った!? 恨みでもあるのか!?」

「ワタシは、主たるオーディンの命に従ったまで!」


 黒幕がいたのか。彼女はあくまでも実行犯であり、動機があったわけではないと。


 だから今まで、犯人が見つからなかったのか。


「どうしてヘカトンケイルを殺す必要があった!? 教えろ雪女!」


 猛攻を加えながら、バロール先輩がドラゴン魔獣少女に詰め寄る。


「主のお考えなど、聞くまでもなし。ワタシは、主の命令に従うまで。主が殺せと言えば殺し、死ねと言われれば死ぬ。それが我々、エインフェリアだ!」


 まるでロボットだ。イヴキさんのおじいさんを殺した実行犯と、同じような感じである。


「じゃあ、テメエを殺してオーディンとやらに聞き出すぜ!」


 バロール先輩の剣戟が、ドラゴンの竹刀を破壊した。


 ドラゴン巫女の手から、血が滲んでいた。


「強すぎる。オーディンが恐れたわけだ。これに頼ることになろうとは」


 砕けた竹刀から、白鞘が現れる。


 魔獣少女竜崎が、鞘を抜く。かと思えば、細身の一撃がこちらの目を狙ってきた。


「フェンシング!?」


 かろうじてかわしたが、頬をかすって血がにじむ。


「オーディンのヤロウは、どこにいる!?」

「我が主、オーディンは、遥か高みにいらっしゃる。お前やサマエルなど及びもつかぬ場所に!」


 彼女も相当強いが、オーディンはもっと大きな存在なのだろう。


「ノドへの一突きが、来ます!」

「わかってらあっ!」


 ドラゴン少女の突きを、先輩は強引に抑え込んだ。返す刀で、相手の首を狙う。今までにない、ダーティな攻めだ。本気で殺しにかかっている。


 いけない。なんとか止める手立てを。


「ん?」


 こちらとは、別の気配を感じた。


 あれは、さっき倒したロリ巫女か。

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