第44話 暴れる魔獣少女を抑える、唯一の方法

 魔獣少女スカディが出したのは、サーベルである。竹刀に隠されていた白鞘から現れた刀身は、ツララのようにいびつだ。ドラゴンのウロコを模したビキニアーマーと、意匠も揃っていた。


「それがテメエの武器か。見覚えがあるぜ。それで、ヘカトンケイルのヤロウを刺し殺したんだよな?」


 青白い刀身を見て、バロール先輩が怒りを溢れさせる。


「いかにも。そして、お前もオーディンからの討伐対象だ!」


 ドラゴン巫女が、打ち込んできた。


 日本刀で、バロール先輩は攻撃を受け流す。


「上等だ。狩られる前に狩り殺してやるよ!」


 二人の攻撃が、さらに激しさを増していった。

 



――イヴキさん、いますか?



 わたしは、近くにいるだろうイヴキさんに、救援を求める。


「ヒトエさんですね? はい。なんでしょう?」



――今、直接脳内に通信を送っています。現在、非常にマズい状況にあります。



 今のわたしはバロール先輩に乗っ取られ、身動きが取れないことを伝えた。

 

 戦局そのものは、こちらが優勢だ。以前のわたしだったら、確実にあの相手に負けていた。しかし今は違う。ドラゴンでさえ、退けてしまうほど強くなっている。いや、強くなりすぎた。


 このままだと、確実にバロール先輩は相手を殺してしまう。先輩の能力は、相手魔獣の力を切り離すだけなのに。さらなる暴力で打ちのめしてしまうかも。

 そうなる前に、手を打たねばならない。

 


――わたしの指示通り動いてください。



 イヴキさんに、例のロリ巫女を抱きかかえてもらう。


「なにをするのです!? 私はお尻を攻めることはあっても、自分の尻は守ります!」

「静かにしてくださいまし。あなたの大事な人を守るためです」

「うう」


 ロリ巫女は、イヴキさんに諭されて黙り込む。


「どうすれば?」



――わたしの、正確には、バロール先輩の後ろに回り込んでください。あとは、その池尻イケジリさんでしたか? 彼女に任せればOKです。




「承知しました。お願いできますか?」

「準備万端です」


 ロリ巫女池尻が、忍者のように印を結ぶ。

 尻を攻めるというなら、この方法だろう。


「おらあ!」

「あっ!」


 バロール先輩が、ドラゴン巫女のサーベルを弾き飛ばした。サーベルは、氷のように砕け散る。


「覚悟しろよ、スカディ! テメエだけは許せねえ!」

「まだ終わっていない!」


 ドラゴン巫女スカディが、氷のブレスを吐く。


 バロール先輩が、剣を振るう。その風圧だけで、ブレスを吹き飛ばした。


「終わりだ。スカディ。おとなしくオレサマに命を捧げやがれ」

「オーディンよ、我に力を」


 いけない。このままでは魔獣少女ごとスカディを殺してしまう。



――今です、池尻さん!



「今だそうです」

「心得ました! 忍法、七年殺し!」


 池尻の指が、わたしのお尻に直撃した。


「ンアーッ!」


 バロール先輩が絶叫し、わたしは肉体を取り戻す。

 わたしも痛くて、気絶してしまったが。


「負けだ。好きにしろ」


 こちらが先に失神したのに、ドラゴン巫女スカディはヒザから崩れ落ちた。首を差し出すように、わたしの前でうなだれる。


『武器も失い、技のすべてを防がれた。まさか、これほどまでに強いとは。戦士として潔く死を迎え入れようではないか』


 ドラゴンも、魔獣少女の隣であぐらをかいた。


「いえ。悪いのはスカディであって、あなたまで殺すつもりはありません」

『そうそう。コイツには聞きたいことが山ほどあるから、まだ殺さねえ。その前にヒトエ、お前よくあんな作戦を思いついたな』


 先輩を正気に戻す作戦のことか。


「イヴキさんでは強すぎます。ロリ巫女さんがちょうどよかっただけですよ」

『そうか。まあいいか。オレサマも頭に血が上りすぎた』


 ひとり反省会を終えて、バロール先輩はドラゴンのスカディに問いかける。


「で、オーディンの願いってのはなんだ? 魔獣少女の目的は?」

「主の願いは知らん。だが、魔獣少女の目的は、『妹の病気を治すこと』と聞いている」



 妹……まさか!



 わたしたちは、急いでユキちゃんのもとへ向かう。


 そこには、臨也イザヤさんとマナさんが、倒れている。


「ユキちゃんのお姉さん!?」


 イヴキさんの運転手であり、ユキちゃんのお姉さんが、ユキちゃんを抱きかかえながら立っていた。

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