第42話 魔獣少女とドラゴン

加瀬カセイヴキさん。あなた、お尻が弱そうなお顔をしていますね?」

「弱いかどうか、試してご覧なさい」

「ふん。人間性おしりを捧げなさい!」


 身長差がある者同士なのに、小さいケツアルカトルがイヴキさんを圧倒していた。

 イヴキさんが一発を入れるたびに、向こうは三発以上攻撃を当てている。

 シラットが通じていないわけじゃない。それより相手が強いのである。


「イヴキさんは、サマエルの力を全力で出しているのに」

『相性だ』


 イヴキさんは、どちらかというとパワータイプだ。


 対するケツアルカトルは、スピードによる手数が物を言う。


『思っていたより強い相手だったようだ。頭に血が上って、戦力に気が付かなかったようだな』


 バロール先輩が、冷静になっていく。


「確かに、あなたとわたしでは格が違いすぎます。戦闘経験も少ない。ですが、治癒だけが取り柄のサマエルに、超攻撃型のケツアルカトルが後れを取るとでも思ったのですか?」


 ケツアルカトルのムチが、イヴキさんの腕を折る。


「ええ。あなたのような魔獣少女が、まだいたとは驚きです。が」


 一瞬で、イヴキさんは腕を治癒能力で治す。


「またすぐに折って差し上げましょう!」


 ヘビのムチが、イヴキさんに絡みついた。


 だが、イヴキさんはなすがままになっている。


 ゴキリという薄気味悪い音が、夜の神社にこだました。


「観念しましたか。全身の骨をバラバラにした後、お尻を頂きます!」

「それはどうでしょうか。わたくしに憑依している魔獣をお忘れですね? フェニックスですよ」

「わ、しま――」


 巫女は、ムチを解いてイヴキさまから逃れようとした。


 イヴキさんは巫女より早く、全身を炎に包む。


「あぎゃあああああ!」


 ヘビの巫女が、火ダルマになった。ムチも焼け焦げて、イヴキさんの拘束を解く。


「な、なぜ!? 全身を砕いたはずなのに!?」

「わたくしの力は、治癒ではなく『復活』ですの。一度ダメージを受ける必要があるのです。そのまま、丸焼きにして差し上げましょう」

「ひいいい!」

「ご安心を。ヤケドは治療して……む!」


 巫女を包んでいた炎が、一瞬で消え去った。


 イヴキさんが放った最強クラスの炎さえ、いともたやすく消すとは。


「委員長!」


 焦げた巫女服をかき集めて身体を隠しながら、魔獣少女は後ろを振り返った。


 そこ現れたのは、ヘビ巫女と同じ服装に身を包んだ少女である。だが、蛇と言うにはあまりにも偉大すぎる。この姿は。


「オロチ……ドラゴン!?」


 メガネを掛けた黒髪ロングヘア少女が連れているのは、真っ白いドラゴンである。


『見つけたぜ……てめえがスカディ、ダチの仇だな!?』


 バロール先輩が勝手に、わたしの身体を乗っ取った。

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