第40話 魔獣少女と夏祭り

 わたしとイヴキさんが、浴衣に着替えた。

 イヴキさんは朝顔に舞う蝶の柄、わたしは百合の柄である。


「すっごい。ヒトエちゃん一番似合うかも!」

「ホントですわ。シャンとした姿勢のヒトエさんにピッタリです」


 ユキちゃんだけでなく、イヴキさんからもお墨付きをもらった。


「ありがとう。じゃあ行こうか」


 これは、着物の生地が素晴らしいと思っていよう。


 あまり浴衣なんて着ないから、ホントに似合ってるかはわからないけど。


「うん。うんまうんま」


 わたしは色気より食い気だ。フランクフルトもアイスクリンも、全部胃袋へ詰め込む。


「やはり戦った後だからでしょうか、お下品になってしまいますわね」

「お下品上等ですよ、イヴキさん! 今日はわたしのおごりです! バンバン食べちゃいましょ」


 ラムネで乾杯した。


「お前ら、いつの間にそんな仲良くなったんだよ?」


 わたしたちが魔獣少女だと知っているマナさんが、耳打ちをしてきた。


「まあ、色々あったんですよ」


 タコ焼きで、マナさんの口を塞ぐ。


「あふう!」


 聞いたこともない声で、マナさんが悲鳴を上げた。


「アハハ、マナさんなにその声!」


 大きく口を開けて、イヴキさんが笑う。


 みんな、イヴキさんの変わり様にあっけに取られていた。あれだけ超然とした態度ばかり摂っていた彼女が、人を指さしてゲラゲラと笑っている。


 やはり、彼女も普通の人間だ。面白いことがあったら笑うし、水着がはだけたら慌てるし、誰かのために泣くのである。


 魔獣少女をやめさせたいっていう【九尾の狐ヘカトンケイル】の気持ちも、なんだかわかる気がした。


 屋台で焼きそばを買い、草むらで花火を眺める。渡海で見るような大きい大会じゃないけど、わたしには十分だ。


 しかし、様子が変である。花火が終わっても、誰も帰らない。


「夜店もそのままだ。何があるんだろ?」

「このお祭りって、何年かに一度、巫女様が出てきて、直接『神楽』を踊ってくださるんだって!」


 へえ。珍しい。


「神楽って、厄年の人のために踊るアレだろ?」

「そうそう。でもね、櫓に上がって踊るんだってさ」


 あれかな、京都の祇園祭みたいな感じなのかもしれない。市で選んだ子どもが、神事を行うんだよね。


「出てきたよ!」


 櫓に、一人の少女が舞い降りた。他の人には、クレーンで吊られて現れたと思っているだろう。だが、彼女はひとりでに降りてきたのだ。


 巫女服姿の……魔獣少女が。


『おいヒトエ、あれはっ!』


 バロール先輩が、わたしの前に姿を表す。


「はい。魔獣少女です」


 その少女は、翼の生えたヘビの魔獣を従えていた。


「我は、ケツアルカトル! みなさん、お尻は開いてございますか?」


 とんでもないことを言い出したぞ、この巫女!?


「お尻まで丸出しになるほど心も丸裸にすれば、涼しさとともに巫女様に癒やされることでしょう。いでよ、涼風の巫女、スカディ!」


 スカディ!


 わたしたちが追っていた魔獣少女が、巫女の中に!?

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