第五章 魔獣少女危うし! 先輩の仇、現る!

第39話 魔獣少女と、浴衣

 サマエルの言葉を聞いて、バロール先輩が質問をする。


『雪女の王って、誰かわかるか?』

『スカディです。北欧神話の雪の女王ですね』

『なるほど、スカディってやろうか。そいつに聞いたほうがいいのかもな。能力は?』

『それが、私も会ったことがないのです』


 物知りのサマエルでさえ、ロクに顔も知らないという。


「ひょっとして、その魔獣少女って引きこもりなのではないでしょうか?」

『バカ言え。引きこもりが魔獣少女なんかになるかよ』

「でも、『ずっと家にいたい』って願いなら叶えるかも知れません」


 バロール先輩は納得した後、『やっぱりありえない』と告げた。


『ダチを殺した理由にならねえ』

「でも、お友だちを殺害した後で、『隠れていろ』とかって、誰かから指示をされたなら?」

『……黒幕がいるってのか?』

「ここまで探しても、全然見当たらないんですもの。そうとしか」


 とにかく、まずはスカディと契約した少女を探さないと。


 部屋に戻ると、ユキちゃんたちが浴衣になっていた。


「見て見て、ヒトエちゃん!」


 金魚柄の浴衣を着て、ユキちゃんがくるりんと回る。


 臨也イザヤさんはおとなしめの花火柄で、マナさんは甚平のようなショートパンツの浴衣だ。柄こそ男性的だが、胸がはだけていてセクシーである。


「どうしたの、みんな?」

「今日な、花火大会があるんだってよ」


 ユキちゃんのお姉さんである、アキさんが着付けてくれたそうだ。


 わたしたちがいない間に、そんなことに。


「お二人のお召し物も、ご用意しております」


 二種類の浴衣を、見せてもらう。


「どうします?」

『オレサマとしては、一刻も早く仇を探したい』


 ですよね。


『とはいえ、闇雲に探しても見つからんだろう。ここは、ニンゲンの祭りに乗っかろうではないか』

『とかいって、ホントはニンゲンの作る食べ物に夢中だったりしませんか?』


 イヴキさんの身体から、サマエルが抜け出す。


『んだと!』

『バロールは巨体なだけあって、食いしん坊ですから』


 サマエルが、茶々を入れる。


 わたしは、思わず笑ってしまった。


「どうしたの、ヒトエちゃん?」


 ユキちゃんから不思議がられたので、わたしは我に返る。


「な、なんでもないよ、ね、イヴキさん?」

「え、ええ。そうですわヒトエさん」


 わたしたちが親しくしていることに、マナさんと臨也さんが詰め寄った。


「おい、お前らアタシらに黙ってどこに行っていたんだ?」

「そうですよイヴキ様! まさか、ハレンチなことを!?」


 臨也さんが、一人でヒートアップする。


「そんなわけありませんでしてよ! ささ、浴衣に着替えますわ!」


 元気を取り戻したイヴキさんは、ようやく普通の女子高生になった気がした。

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