第33話 真・魔獣少女のお嬢様

「オレサマは、テメエの針からクラスメイトを守るだけだ。テメエを始末するのは、イヴキでいいんだよ」


 手ごろな岩に、わたしは腰掛けた。


「あら? 二人同時に相手してもいいのよ」


 魔獣少女フェンリルが、わたしたちを挑発してくる。


 わたしは「ハン!」と鼻で笑う。


「テメエごとき三下に二人がかりとか、笑わせんな。ちゃんとイヴキがトドメをさしてくれらあ」


 フェンリルの顔が、青筋だらけとなる。


「いいわ。ここにいる全員、私の針のエジキにしてあげる! 集中治療室に入っている間、私はずっと、私を半殺しにした加瀬カセ イヴキを殺すことだけ考えていた! それがやっと叶う! 全魔力開放!」


 かけ声とともに、フェンリルの全身が総毛立つ。


「ぶっ殺せ!」


 フェンリルが、針の全弾を発射した。 


 あれだけの数は、とてもさばききれない。


 わたしはかろうじて、クラスメイトへ飛んでいく針は剣ですべて弾き飛ばす。


 だが、イヴキ様は自力でなんとかしてもらうしか。


 それに、イヴキ様へ飛んでいく針のほうが、遥かに多い。このままでは。


 まったく怯むことなく、イヴキ様は身構えている。


「観念したか、加瀬イヴキ!」

「……魔力開放」

「なにい!?」


 これまで、サマエルの魔力に頼らない戦い方をしていたイヴキ様が、魔獣少女の魔力をすべて開放した。


「ビースト・クロス」


 イヴキ様が、変身の詠唱をする。


 空を置い尽くすほどの赤い羽根が、フェンリルの放った針の嵐をすべて焼き尽くす。


 その姿はまるで、灼熱の天使だ。あるいは、世界を煉獄で焼き尽くす断罪の堕天使か。


「なんだと……」

「魔獣少女が魔獣の力を借りて、なにがいけませんの?」


 跳躍したイヴキ様が、急降下してフェンリルの脳天へとヒザを落とす。首の骨をへし折り、フェンリルを断罪した。


 ぺたんこ座りの状態で、少女の中のフェンリルが死んだ。


 あとは、満身創痍の少女が草むらで眠っているだけ。だが、顔色が悪い。ほっておいても、死んでしまいそうだ。


「サマエル、治療して差し上げて」


 変身を解き、イヴキ様が指示を出す。


 わたしも、変身モードを解除した。


「よいのです?」

「ええ。もうすべて終わりましたわ。あとは、わたくしに襲いかかる殺人犯を探すだ――」


 イヴキ様の背中を、何者かのサバイバルナイフが貫こうとした。


 中年の男性で、身体が引き締まっている。スポーツや格闘技より、人殺しで鍛えた筋肉だと瞬時でわかった。


 その彼が手に持っているナイフが、今にもイヴキ様の命を奪おうと迫る。


「てめえ!」


 だが、それよりも早くわたしの手が、犯人の顔面を握りしめていた。

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