第32話 魔獣少女の執念

 わたしたちはサマエルから、イヴキ様の過去を知る。


「ひどい。家族がそんな冷たい態度を取るなんて」

『性格が歪むのも、ムリはないぜ』


 だからこそ、イヴキ様は力を得た途端に自身の家族を壊した。 


 イヴキ様は孤独に、おじいちゃんの仇を探している。今でも、誰の手も借りず。


『私が協力したのは、イヴキの祖父を殺害した関係者の割り出しのみです。人に直接手を下すことは不可能です』


 いくら魔獣少女とはいえ、人間界に直接危害を加えることはルールに反する。人を守ることはできても、傷つけてはいけない。


『イヴキはそのルールを飲んだ上で、自身を魔力で強化しない代わりに人間を傷つける方法を思いついたです。私に負傷箇所を治癒させることです』


 なんということだ。魔獣少女にダメージを与えると、衝撃で自分もケガをする。イヴキ様は負傷した部分を、サマエルに治させているのだ。


「どうしてそんなルールを」

『彼女なりの、ケジメの付け方なのです。徹底的に相手を痛めつけるために、自分も傷つくことを望んだです』


 どういう執念か。そこまでして、自分で始末したかったとは。


『ですから、私はイヴキを強化したことはないのです』

「そんなのダメですよ! 一番痛い思いをしているのは、イヴキ様じゃないですか!」


 いくら敵討ちに魔獣少女の力を使えないからと言って、そんなマネをするとは。


 しかし、イヴキ様は孤独に戦う。ボロボロになっても。


「どうしたの? どうして、あなたはズタズタになっても立ち上がるの? 仇討ちにしては、ややお優しすぎない?」


 イヴキ様の視線が、マナさんたちの方へ向く。


 魔獣少女フェンリルは、その視線に何かを感じ取ったようだ。


「そうか、お友だちを守るためね?」


 フェンリルの顔に、邪悪な笑みがへばりつく。


「だったら、あんたの大事なものをぶっ壊してあげる!」


 フェンリルが、シッポを振った。トゲトゲの針を放つ。


 これだけの数では、さすがのイヴキ様でさえ防ぎきれない。後ろにいるクラスメイトたちにも当たってしまうだろう。


……許せない!


「おるあ!」


 わたしは、刀を抜く。


 フェンリルの針を、すべてを防ぎきった。


「ヒトエさん!?」


自分にも針が飛んでくると思っていたであろうイヴキ様が、構えを解く。


「なんだと、全弾止められた? もう一体、魔獣少女がいるのか?」

「そうさ。テメエは魔獣少女の中では二番手……いや。今まで見てきた魔獣少女の中でも、テメエは最低のクズ野郎だぜ!」


 わたしの言葉を受けて、フェンリルが舌打ちをする。


「あんたにどう思われようと勝手だけど、素人の分際で人を品定めしないでくれる?」


 フェンリルが、身構えた。


「二人同時にかかってきなさいよ。それで、私の最強を証明してあげるわ」

「はあ? 何を勘違いしてやがる? テメエの相手はイヴキだけだ」


 わたしは、フェンリルとイヴキ様の間から離れる。

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