第31話 肉弾戦の魔獣少女

「もっと早く襲ってくると、思っておりました。大神オオガミさん。今は、天狼会テンロウカイのお嬢さんとしてですか?」

「民暴は今、大変だからよ。下手に動けなかったのよ」


 天狼会とは、日本最大規模の指定暴力団ではないか。そんな相手にケンカを売っていたのか。


加瀬カセグループは、私たち天狼会からすると目障り極まりない。さっさと潰すべきだった。しかし、先に私のほうがあなたに潰された」

「わたくしが殺したかったのはあなたではなく、あなた方が祖父に差し向けた殺し屋だったのですが」

「私は直接、あんたを殺したいの!」


 大神という少女の膝蹴りが、イヴキ様に襲いかかる。


 イヴキ様が飛んだ。カウンターで同じように飛びヒザを浴びせる。


「ちい。やはり一筋縄ではいかないわね!」


 顔をひっかくような手の形で、大神が裏拳を繰り出す。


 イヴキ様はあっさりと身をかわした。カウンターで、相手の首へハイキックを見舞う。


「裏社会で、ひっそりとなさっていたらよろしかったのに。天狼会はいつから、陽の光まで欲しくなりまして?」

「陽の光どころか、私たちから居場所すら奪ったのは、お前たち加瀬どもだろうが!」


 大神の正拳突きのタイミングに合わせて、イヴキ様は相手のみぞおちへ拳を叩き込む。


 どうやらこの二人の間には、わたしでは想像もつかないほどの因縁があるみたい。


「政府や警察機構さえ海外の言いなりにさせようとした、あなた方が悪いのです」


 これは、わたしの出る幕はなさそう。


『おい、イヴキってヤツ、妙だな?』


 バロール先輩が、わたしの顔の横に浮かんだ。


「なにがです?」


 見た限り、イヴキ様がリードしているように見えるが。


「あっ!」


 そうではない。たしかに、イヴキ様の方が当たっている数が多かった。しかし、実際のダメージはイヴキ様の方が受けている。攻撃をした箇所が、血まみれだ。表情も、痛みに耐えている用に見えた。


『イヴキ。ダメなのです! またムチャをして!』 


 ナース服を着たデフォルメの魔物が、バロール先輩の隣に浮いている。


「うわあ、どちらさま?」


 わたしは思わず、尻餅をつきそうになった。


『コイツは、死神サマエル。おそらくコイツが、イヴキってやろうの使い魔だ』


 肯定するかのように、サマエルという使い魔がうなずく。


『サマエル、ヤツに自分の能力を分けてやらなくていいのか?』

『いいです。イヴキが望んだことです。これは、罰だと言ったです』


 罰?


「いったい、どういうことなんですか?」

『イヴキは、死に場所を求めているのです』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る