第30話 魔獣少女と、襲撃犯

 イヴキ様のおじいさんは、一代で財を成した人だそう。


「ですが、子どもの教育に失敗したと随分と嘆いておられました」

「それで、イブキ様が後継として選ばれたと?」


 臨也イザヤさんが、会話を引き継ぐ。


「ええ。けれど、お祖父様は志半ばで」


 イヴキ様を抱いている状態で、襲撃を受けて亡くなったそうだ。


 随分と辛い過去を持っている。


「ごめんなさいませ。お食事中に話す内容ではありませんよね。オヤツに致しましょう」


 例の買い込んだという駄菓子を見せてもらった。


「ほとんどのお菓子はは、海外や国内の児童福祉施設へ寄付いたしました。それでも間に合わず、メイドさんや執事さんたちにも分けてさしあげました。お子さん、お孫さんに喜ばれたそうで、なによりでしたわ」


 イヴキ様でも駄菓子を食べるのか。まあ、偏見はよそう。イヴキ様だって、大騒ぎしたい年頃なのだ。


「すまねえ。あたし、あんたのことを誤解していたようだ」


 マナさんが、イヴキ様にソフトキャンディを分ける。


「わたくしの方こそ、御堂ミドウさんに無礼を働きましたわ」


 イヴキ様とマナさんが、お互いのお菓子をシェアし合う。イヴキ様のチョイスはカルパスだったが。センスが独特だなぁ。


「ごちそうさまでした。楽しい遠足になりましたわ」


 これで無事に済めば……そう思った矢先のことだ。


 イヴキ様のブルーシートに穴が開く。見ると、割り箸が突き刺さっていた。威嚇ではない。イヴキ様の足を狙ったのだ。とっさにイヴキ様がかわしていなければ、足に箸が刺さっていただろう。


 クラスメイトたちが、悲鳴を上げる。


「みなさんは、避難を誘導なさって。ここはわたくしだけで食い止めます」


 イヴキ様が視線を生徒たちに向けた瞬間だった。割り箸が、イヴキ様の首を狙って飛んでくる。


 バツグンの反射神経で、イヴキ様は箸を指で挟んだ。


「生徒を狙わず、わたくしだけを狙ってらっしゃいますわ。フェアプレーのつもりでしょうか?」


 手の中にある箸を、イヴキ様が握って割る。


「どうして、あなたは逃げなさらないの、来栖クルスさん?」

「逃げるワケにはいかないよ。わたしだって、警察官の娘なんだもん」

「国家機関のお嬢さんなれど、あなたは一般人なのですよ? お逃げなさい。わたくしの楽しみを奪わないでくださいまし」


 楽しみだって?


「どういうこと?」

「おそらく襲撃犯は、祖父を殺した者と同一人物です。わたくしの手で始末しないと。わたくしの修業の日々は、そのためにありました」


 なんという執念だ。イヴキ様が強くなったのが、そんな悲しい理由だったなんて。


「わたしは、イヤだ」

「来栖さん?」

「友だちが、人を殺すために訓練をしていたなんて。そんな人生、間違ってるよ」

「感情的にならないでくださいまし、来栖さん。これはわたくしの問題です。だから、ほうっておいて――」

「イヴキ様を、人殺しになんてさせない」


 わたしは、首を振った。


「先輩、魔獣少女ですか? だったら対処できます」

『箸を飛ばしているのは、そうだな。しかし、殺人犯は別にいる』


 また、箸が大量に飛んでくる。


「危ない!」


 わたしは、とっさに変身する。イヴキ様の前で、変身をしてしまった。


「来栖さん、あなた……」

「あの、これは」


 わたしが弁解しようとしたとき、敵が姿を現す。


「なに? あんた、魔獣少女なんて連れてるの?」


 出現したのは、病的なまでに肌が黒ずんだ、ゾンビのような少女である。いわゆる「地雷系メイク」の。


「ごきげんよう、大神オオガミさん。もしくは、【フェンリル】とお呼びしたほうがよろしいかしら?」

「そうね。私のことはライカンの王、フェンリルとお呼び!」


 またしても、魔獣少女フェンリルが箸を飛ばしてきた。箸だけではない。木の枝や道路標識まで。


 この数は、受けきれない。


『イヴキ、スキルを発動します』

「よしなに」


 イヴキ様が、構えた。


 防風が吹き荒れ、わたしたちを襲った物体が吹き飛ぶ。


『おいヒトエ、このスキルは』

「まさか、イヴキ様も?」


 その疑問は、イヴキ様の姿を見て判明した。


 イヴキ様も、魔獣少女だったのである。

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