第27話 魔獣少女と、不穏な動き
バイク乗り魔獣少女のアキレスは、完全にわたしに怯えているようだった。
「あんた、なにか知ってるの?」
できるだけ有利な情報を得るため、少々やりすぎなくらいで脅す。
アメとムチ、事情聴取の有効な手段だ。
「お前の弟を怖い目にあわせたら、絶対にあんたはやってくるってタレコミがぁあああ!」
刀を抜き、わたしはバイクを切り裂く。これで相手は逃げられない。
「ひええ! 殺さないで!」
「殺しはしない。ただ、知っていることを話せ」
わたしは、魔獣少女に切っ先を向ける。
『ヒトエ、人格代われ』
「そうですね」
情報がほしいのは、おそらくバロール先輩の方だ。
「オレサマのダチ、『
「知ってます! 知っていますとも!」
「誰だ!」
「そいつは、雪女の……ぐほお!」
魔獣少女が語ろうとした瞬間だった。氷の槍が少女の腹を突き破ったのは。
白目をむき、アキレスはグッタリとなる。
「死んだんですか?」
「いや。やつの中の魔物だけが死んだ」
魔獣少女の変身が、解けた。腹の傷は消えている。
「クソ、誰が」
グラウンドを覆う金網の向こうに、黒い人影が。バイクに乗って逃走を試みている。
「待ちなさい!」
わたしが駆け出そうとしたところで、マナさんが割って入った。どうして?
「お前は弟を見てやれ! あたしが追いかける!」
そうだった。弟はまだ倒れているんだ。
「お願いします!」
わたしは、変身を解く。弟を抱き上げて、日陰へと移動した。
変身解除したら、弟の体重が重い。
日陰に着くまで、変身したままにしておけばよかったか?
いや、却下だ。こんな姿見られたら、弟は一発でわたしに気づくだろう。
「ね、姉ちゃん?」
弟が、目を覚ます。
「起きたか。何もされなかった?」
「ああ。抱きつかれた記憶はある。それから気を失ったから、なにも覚えてない」
あの魔獣少女、殺してやる。
『待て待て。もう死んだから』
「そうでした」
わたしは、心を落ち着かせた。
「ヒトエ姉ちゃん、その……」
「どうした?」
弟が、なんか恥ずかしがっている。たしかに、弟はわたしと違ってチビなんだよな。わたしは並の男子より少々背が高いから。
「ん?」
わたしたちのことを、サッカー部のみなさんが凝視している。さもうらやましそうに。
「いいなぁ」「ジローのやつ、お姉ちゃんにお姫様だっこされてるぜ」「尊い」
どうやら、サッカー部にあらぬ誤解を招いてしまったようだ。
「オホホ。すまんすまん。立てるか?」
「平気」
我に返ったわたしは、弟を地面へと降ろす。
「ジローくん、大丈夫?」
ユキちゃんが、ジローに駆け寄った。
「は、はい。元気そのものです」
「さっきは死にかかっていたくせに」
「姉ちゃん黙ってろ」
「はいはーい」
わたしはクールに去る。
それにしても、さっきの魔獣少女……。
マナさんを待つために学校を出ると、マナさんが帰ってきた。
「ダメだ。すまん。見失った」
「いいんですよ。それより、おにぎりを食べましょう」
気を取り直して、わたしたちはおにぎりでおやつタイムにする。もぐもぐタイムってやつだ。
サッカーの試合は無事に再開され、弟の学校が一点リードしたまま勝利した。
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「ただいま戻りました」
「よいのです。いい買い物ができました。
運転手である
「妹が心配だから」というため、たまには自分一人で行動しようと思ったのだ。
「イヴキ様の方こそ、おケガは?」
「駄菓子屋を巡るくらいで、負傷など致しませんわ。それより御覧なさい」
イヴキは駄菓子のほとんどを、箱買いしている。
「カルパス、即席ラーメン、アソート、ガム。どれをとっても一級品ですわ。どれを食べようか迷ってしまったので、ついつい三〇〇万円ほどお買い上げしてしまいました」
「はあ……」
自分の持っていく分以外は、児童福祉施設に寄付するという。
「というわけで、亜希。仕分けを手伝いなさい。わたくしが遠足に持っていくにふさわしいお菓子を一緒に選ぶのです」
「はっ」
亜希が、赤いリムジンを走らせる。
後部座席に座ったイヴキは、遠足に思いをつのらせていた。
殺人予告の手紙が、実家に届いたという報を聞くまでは。
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