第四章 魔獣少女とお嬢様! 本当の敵は!?

第28話 イヴキ様 殺害予告

 イヴキ様を殺害するという予告状が、加瀬カセ家に届いたという。


 明日は一学期を締めくくるイベント、みんなで遠足の日なのに。


「仕方ありませんわ。わたくしだけは欠席させていただきます」


 万が一のために、イヴキ様は休むという。


「そんな、イブキ様」

「学生生活を謳歌なさるクラスメイトを、危険な目に合わせるわけには参りません。わたくしは、家でおとなしくしていましょう。幸い三〇〇万円分の駄菓子もございます」

「三〇〇万円もかけて、駄菓子って買うものなの!?」


 我々庶民は驚いていた。


 当の本人はケロッとしている。


「違いますの?」

「アイドルのブロマイド入りポテトチップスでさえ、そんなに買う人はいませんよ」

「まあ。よろしくて。みなさん、楽しんでいらっしゃいな」


 そうはいっても、イヴキ様が一番こたえているようだった。楽しみだったんだろうなと。


「先生、お願いがあります」


 わたしは、手を上げた。


「なんだ、来栖クルス?」

「わたしが同行します。イヴキ様の遠足参加を、許可できませんでしょうか?」

「お前が?」

「わたしの父は、警察官です。話を通して、父に警護をつけてもらおうかと」


 そう提案すると、イヴキ様は首を振る。


「来栖さん、あなたのお気持ちは大変うれしゅうございます。しかし、あなたはしがない女子高生。ご面倒をかけるのは」

「ご面倒をかけても許されるのが、友だちでしょ」

「わたくしたちが、お友だち?」


 おこがましいかもしれない。でも、それこそイヴキ様がもっとも欲しているもののように思えた。


「だってさ、プールで人一倍はしゃいでらしたでしょ? 同年代の話し相手って欲しいのかなって」

「ま、まあ。よく観察してらして」


 イヴキ様が、多少挙動不審になる。図星を突いてしまったか?


「すいません。でもさ、一人でお留守番なんてかわいそうですよ。距離を離して別行動で同じルートを行けばよくないですか?」

「ふむ」


 先生は難色を示す。


「担任は、他の生徒の心配だけしてればいいんだよ。あとは、あたしらが見張っておくから」


 マナさんも、同じ班になってくれるようだ。


「私も」

「ワタシも!」


 臨也イザヤさんとユキちゃんも、同じように手をあげる。


「お前たちだけに、任せるわけにはいかん。オレにだって立場がある。いざとなったら盾になるさ。とはいえ、全校生徒を保護する保証はできないんだよ」


 担任の先生的には、アウトだという。


 仕方ない。当日はお留守番してもらって、後日改めてみんなで回ることにするか。


「保護者がいればいいというのですね?」


 黒ずくめのスーツを着た女性が、HRに現れた。


「あなたは、どなたでしょう?」

「お姉ちゃん!?」


 担任がスーツの女性に声をかけると、ユキちゃんが立ち上がる。


「申し遅れました。ワタシは藤白フジシロ 亜希アキといいます。藤白 由紀ユキの姉で、加瀬 イヴキ様の運転手です」


 ユキちゃんって、お姉さんがいたんだ。


「はあ。ご丁寧に。ですが、保護者というのは」

「ワタシは大学で教育学部でして、別の学校で教育実習生も経験済みです。監督役としては適任かと」

「しかし、見ず知らずの女性を保護者としてお招きするには」


 なおも担任が渋っていると、アキさんがバッと服をはだけさせる。服の下には、仰々しい防弾チョッキが。


「いざとなったら、お守りできるかと」


 また、イヴキ様の私兵も配置しておくという。


 警察と連携をするならと約束させ、担任もようやく折れた。


「ではアキ、当日はお願いします。ですが、あくまでクラスメイトさんたちを最優先でお守りして」

「はい。イヴキ様」


 帰りの時間になり、イヴキ様はわたしに声をかけてくる。


「ありがとう、来栖さん」

「いえ。ウチを宣伝してくださって、大繁盛したので。その御礼ですよ」

「ではなくて、お友だちと言ってくださったことですわ」

「は、はあ」

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