第26話 魔獣少女の本能

 弟たちは外傷こそなさそうだが、熱中症にかかったように目を回している。生気を失われた感じといえばいいか。


「うーん、ショタショタ! ショタの情熱って、とっても濃厚ね! 若いだけあって!」


 指をピースサインにして、魔獣少女は腰をカクカクさせている。見た目は、特攻服。彼女がまたがっているのは、オフロードのバイクだ。バイクに刺さった大漁旗には、【飽喪失】と書かれている。読めない。


「私はケンタウロスの王、アキレス! 世界のショタは、わたしのものだ!」


 手を演劇風に大きく広げて、グラウンドの面々にアピールをする。ああ、【飽喪失アキレス】と読むのか。わかりづれえ。


「バロール先輩、ケンタウロスの王だと、ケイローンでは?」


 賢者ケイローンのほうが、ケンタウロス王としてしっくり来そうだが。


「実際、ケイローンに育てられた経緯があるから、いいんじゃね?」


 まあ、自分の足ではなくバイクで疾走している時点で、史実無視だし。


 かくいうバロール先輩も、史実ではサイクロプスと縁もゆかりもない。


 それより、弟を助けないと。


「ジローを助けに行きます!」

「おう、行けヒトエ! 他のガキたちは任せろ」


 ユキちゃんや臨也イザヤさんには、保護者たちの避難を先導してもらう。


「ビースト・クロス!」


 誰もいないのを確認して、変身した。


 マナさんも魔獣少女に変身して、バイクにまたがる。


「バイク対決か! いいねえ! やってやらあ!」

「ヒトエ、アイツはあたしがひきつける。そのウチに!」

「はい! お願いします!」


 マナさんとアキレスのバイク対決が始まった。


 わたしは少年たちを肩に担いで、日陰へと連れて行く。


「ほいほい」


 相手チームも分け隔てなく、日陰の方へ寝かせた。後は監督さんに任せる。


「どうでしょう?」

「気絶しているだけだ。体を冷やしておきます」

「お願いします」


 最後は、弟のジローを助けるだけ。


 しかし、そこでアクシデントが。マナさんがスリップしたのだ。


「アハハ! オンロードで砂まみれのグラウンドなんて走るからだ! タイヤを取られるなんてね!」


 アキレスが、勝ち誇っている。


「おとなしく二対一で戦っていればいいものを、情にほだされてガキのお守りなんて任せるから」


 呆れ果てながら、アキレスは吐き捨てた。


「ふごおお!」


 わたしは、鞘のままアキレスの横っ面をぶん殴る。


「じゃあ、期待どおりにしてやるよ」


 いつもの口調を捨てて、わたしは思う存分魔獣少女を痛めつけた。


「とうとうやる気になったね、魔獣少女バロール! けど、もうあんたの快進撃はおしまいだよ!」


 魔獣少女がバイクを吹かす。真正面から、わたしを跳ね飛ばそうと加速した。


 わたしは、動かずに刀だけを構えて腰を落とす。


「バカな! 居合斬りで対処なんてできるわけないだろ! おとなしくショタ共を渡すんだよ。夢の世界へ連れて行ってやろう。ちょっとそこの茂みに誘導するだけだから!」

「夢の世界へは、一人で行け」


 わたしは刀を抜く。後ろ向きに。


「なあ!?」


 一瞬、アキレスも何をしたかわからなかっただろう。その前に、吹っ飛んでいったから。


 わたしは、刀の鞘を車輪のスポークに突き刺したのだ。


 スピードが乗った状態で車輪を破壊されたから、オンロードは激しく前のめりになって回転をした。タイヤは外れ、魔獣少女も地面へ投げ出される。 


「すごい、どうしてわたし、こんなに怒っているのでしょう?」

『どうやらお前の本能は、仲間や家族に被害が及んだときに発動するようだな』

「本能が?」

『ああ。オレサマたち魔獣少女は、お前らの本能を引き出す作用がある。お前の場合は、家族や友情を大切にしているようだ』


 それを脅かされた時、わたしは真の力を発揮するそうだ。


『正直なトコロ、オレサマもビビってる』

「え、やだあ」


 急に正気に戻る。

  

「ひい! なんだコイツ! 情報と違うぞ!」


 情報? どういうことだ?

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