第23話 魔獣少女、担々麺勝負

 馬の顔が付いたオンロードバイクに、マナさんがまたがっている。後ろに臨也イザヤさんを乗せて。


『ヒトエ、あいつは』

「ええ。姿こそ魔獣少女ですが、あの人はマナさんです」


 その姿は、まさしく魔獣少女に違いない。


「なあ!? 貴様ぁ!」


 魔獣少女ティアマトが、マナさん型魔獣少女へ触手を飛ばしてきた。


 オンロードを巧みに旋回させ、マナさんは触手を弾く。


 触手はなおも、二人に追撃してきた。


 なんと、マナさんは触手の上に乗って、滑走する。ティアマトを跳ね飛ばそうとした。


「ぎゃあ」


 直撃こそしなかったものの、ティアマトはスライダーの上から連絡する。


「後は任せたぞ、魔獣少女!」


 マナさんが、バイクで逃亡した。臨也さんを連れては、さすがに危険な動きではできないか。


「ちくしょう。我が汁なし担々麺の魅力を屋台で伝えようとしたら、『汁がなくて辛すぎる』って理由でボツにしやがって! 辛いからいいんだろうが! それに本来の担々麺は、汁なしで売られていたんだ! せめて、あのタコス屋台でも破壊してくれる!」


 なんて自分勝手な、魔獣少女なんだろう! あの触手は、担々麺をイメージしていたのか。


「おのれ、ムリヤリにでも客に食わせてくれる!」


 担々麺を、ティアマトが放出してきた。


 わたしは、すべての担々麺を口でキャッチする。


「うーん。まあまあですね。けど」

『だが、どうなんだ?』 

「この担々麺は、魔獣少女じゃあ二番手です!」

『だよな!』


 バロール先輩とわたしの人格が、入れ替わった。


「貴様、なんと言った!?」

「テメエは魔獣少女じゃ、二番目にすぎんといったのだ!」

「一番は誰だ!」

「もちろん」と、わたしは自分を親指で指す。


 わたしの姿が、魔獣少女水着バージョンになる。服装が紫のビキニに変わり、露出度が上がった。


「テメエの担々麺は、辛いだけでコクがねえ。オレサマがホンモノの担々麺を見せてやるぜ!」


 母のキッチンカーを借りて、担々麺を作り上げる。


「なんだこれは、担々麺じゃない。タコスじゃないか!?」

「おうよ。これが、担々タコス麺だ! 仕上がりは、食ってみたらわかるぜ!」


 わたしは、避難民に担々タコスを配った。


「おいしい! 中に麺が入ってる!」

「焼きそばとも違う食感がある! これは売れる!」


 ギャラリーには、大絶賛だ。


「どうだ、無理やり食わせるような料理に、価値などないんだよ!」

「ぬぬう、たしかにうまい! 辛さの中に、コクがある!」


 さすがのティアマトも、わたしの担々麺タコスを評価する。


「だが、老舗の中華料理屋の娘として、負けるワケにはいかない! 我は勝って、店を立て直すんだ!」


 ティアマトが、触手をわたしに伸ばしてきた。


「ようやく本音が出たな! やっちまえヒトエ!」

「はい。破邪・一文字斬り!」


 カウンターで衝撃波を放ち、魔獣少女を両断する。


 魔獣少女が、無害な水着姿の少女に。


「ふう」


 わたしは刀を納めて、変身を解く。


「ヒトエ!」


 マナさんたちが、わたしの元へ駆けつけてきた。


「みなさん、無事でしたか」

「うん。イヴキ様が助けてくれたよ」


 ユキちゃんの話だと、襲ってくる触手はイヴキ様がすべて叩き落としてくれたという。


「警察の方が、お見えになっています。ですが、せっかく遊びに来たんです。温泉くらいには入りたいですわよね。交渉してみますわ」


 イヴキ様は、警察の関係者と話し始める。


「OKが出ましたわ。温泉に被害が出ていないので、入って言いそうですわ。そちらで楽しみましょう」


 さ、さすがイヴキ様だ。あっさり、警察相手に話をまとめてしまうとは。


 わたしの親も警察官だが、父の立場もある。簡単に話し合いはできない。


 午後は温泉に入って、お開きに。


 それにしても、イヴキ様の裸はしばらく忘れられそうにないな。堂々とバストトップを見られるって、女でよかった。


 しかし、イヴキ様は強すぎる。

 魔獣少女でも処理が大変だったあの触手を、生身で叩き落とすなんて。

 ホントに人間だろうか?


『ヒトエ、これはもしかすると』


 わたしは、一人でうなずく。


 イヴキ様が魔獣少女である可能性は、考えておいたほうがよさそうだ。


「ヒトエ」


 マナさんに声をかけられる。


「少し話せるか?」


 わたしは、マナさんにサウナへ誘われた。

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