第24話 魔獣少女の素質

 気まずい。


 わたしはマナさんと、サウナで一緒になっている。


 バスタオル姿のマナさんと二人きり、お互い会話は弾まない。


 他のメンツは、泡風呂で和気あいあいと過ごしていた。


 まさか「どうして、魔獣少女になったんですか」なんて、聞けないし。


『聞けばいいだろうが、ヒトエッ。今が絶好の機会だ』

「でもバロール先輩、マナさんと敵になるかもしれないんですよ?」


 クラスメイトと敵対なんて、できれば避けたい。


『そんときはそんときだ。やっちまうしかない』

「わたしはあなたと違って、バトル脳じゃないんです。手当たり次第にぶっ飛ばすなんて発想にはならないんですよ!」


 わたしがバロール先輩と問答をしていると、


「聞こえているから、心配すんな」


 マナさんが返してきた。


「す、すいません。今までの魔獣少女は、会話すら通じない相手ばかりでして」

「いいんだ。魔獣少女ってのか? それになったいきさつは、やっぱ璃々リリが心配だからだ。あいつが何に悩んでいたのかが知りたい。誰にも迷惑をかけずに強くなろうとしたのか。目的は別にあったのか。まあ、今となってはもうわからないみたいだな」

「ごめんなさい。臨也さんに取り付いていた魔物を、生け捕りにすればよかったですね」

「あんたのせいじゃないよ。ありがとうな。ヒトエ」


 マナさんが、虚空に仮面を呼び出した。

 ドンキで撃っているような馬面マスクである。

 一角獣と言えばいいか。

 ただ、そっぽを向いてこちらに視線すらくれない。


『アイツはユニコーンの王、スレイプニルだ』


 バロール先輩に教えてもらわないと、正体がわからないところだった。


「無愛想ですね」

「コイツは、アタシ以外には心を開かないんだ」


 ユニコーンというのは、そういうものらしい。


「それに、『同担拒否』ってやつらしい」

「どういう意味でしょう?」


 わたしが首を傾げていると、バロール先輩が教えてくれる。


『推しが同じ同士で交流とか、ムリって意味だ』


 説明の後、先輩はマナさんに名乗った。


「つまり、アタシと仲良くしているあんたもキライだってことだよ」


 うわあ。筋金入りだなぁ。


「強いからいいんだが、厄介でな。すまん」

「マナさんがお詫びすることはないですよ」


 魔獣少女になったことで、マナさんとの距離が多少近づいた気がする。 


臨也イザヤさんは、ほんとに魔獣少女だった頃の記憶をなくしたままですか?」

「ああ。昔のままだな。以前は、家族ぐるみの仲だったんだ。こんな時期はさ、月末にみんなしてキャンプするのが楽しみだった」


 臨也さんとの思い出を語り始める。


「でも、璃々のオヤジさんが事業にしくじって借金こさえてな。璃々がエリート中学に入った矢先でさ」


 マナさんは学力が足りず、臨也さんと別の中学になってしまった。


「あいつは、いじめのターゲットにされていた。それを救ったのが」

「イヴキ様?」


 なるほど。イヴキ様が転校騒動を起こした発端は、臨也さんだったのか。


 高校になって、イヴキ様は臨也さんを連れ立って転校してくることに。


「同じ高校に通うようになって、あいつは自分の弱さを克服するために、キツイ性格になった。そんなことしなくても、璃々は強いってみんな知っているのに。あたしが、あいつを守ってやれなかったから」

「マナさんのせいじゃありません」


 うなだれていたマナさんが、わたしの方を向く。まだ幼さの残る、整った顔立ちだ。化粧なんてしないほうが、かわいいのだろう。


「臨也さんが別の学校に進学したのも、頼られてばかりなのが悪いと思ったからでしょう。自分だけでも前へ進めるように」

「そうかな?」

「きっとそうです。でも、やり方が間違っていただけで」


 今なら、マナさんと臨也さんは元通りになるはず。きっと、臨也さんだって誰が助けてくれたかわかっている。誰が支えになってくれるかも。


「助け合うのは、恥じゃないです。わたしだって、魔獣少女の力は自分の力だなんて思っていません。要は、使い方次第なのかなって」

「そっか。お前、強いんだな?」

「いえいえ。わたしなんて全然。では、これで」


 わたしはお風呂からあがる。


「なんかごちそうするよ」


 おごってもらう義理はないのだが、ここで断っても歪みが出そうだ。遠慮なく。


「では、コーヒー牛乳をください」


 瓶のコーヒー牛乳パックを、マナさんからおごってもらう。


「そんな安いのでいいのか?」

「このコーヒー、めっちゃおいしいんですよ」


 マナさんが、「じゃああたしも」と、わたしと同じ瓶を手に取った。


『マナ、念のために聞くが、オレサマのダチを殺したのは、この野郎じゃねえよな?』


 マナさんは、先輩からの質問を自身に憑いた魔物に投げかける。


「違うって。そもそもアタシ以外に興味はないってさ」

『だろうな。まあいいさ』


 他のメンバーも上がって、お開きになった。


「それにしても、魔物が少女を選ぶ基準ってなんですか? 素質ですか?」

『性格だったら、臆病なお前は弾かれてるよ』

「ですよねー」

『ある程度、器ってもんは必要だ。マナはその意味では、かなりのもんだな。あと』


 イヴキ様も。

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