第22話 プールに現れた、二人の魔獣少女

「イヴキ様、ありましたよ!」


 ラッシュガードのファスナーに、ブラの紐がひっかかっている。

 わたしは、イヴキ様にブラを渡した。


「ありがとうございます」


 あせあせと、イヴキ様がブラをつける。


「では、気を取り直して、遊びましょう」


 何事もなかったかのように、イヴキ様はプールに入っていく。


 イヴキ様の衣装は、黒い紐ビキニだ。布面積がきわどく、水に入っていないと男性の注目を集めてしまう。


「おうふ」

「ひゃんっ」


 流れるプールで一緒になり、イヴキ様と胸がぶつかり合った。


「失礼しましたわ、来栖クルスさん」

「いえいえ」と、わたしは返す。むしろ、眼福だ。

「いやあすごい。イヴキ様」


 おそらくイヴキ様は、このメンバーの誰よりも胸が大きい。形もよく、柔らかそうである。


「あなたほどの弾力は、ありませんわ」


 わたしの胸はボリュームのあるお椀型で、イヴキ様は柔らかいロケットおっぱいだ。ホントに飛んでいきそう。


 わたしたちは、ウォータースライダーや、特大バケツからの滝行を堪能した。


「お友だちと遊ぶなんて、夢みたいですわ」


 イヴキ様は、誰よりも楽しんでいる。


 フードコートの食事を、ごちそうしてくれた。


 母のタコスキッチンカーは、大混雑している。手伝おうかと聞いたら、「スタッフは大勢いるから遊んでこい」と返された。


「お家でも、お食事はグルテンは未使用ですの?」


 イヴキ様は、みんなと同じくお好み焼きを食べている。庶民的な味もいけるようだ。


「家ではグルテンバリバリだよ。小麦粉もお米も大好き」


 ヘルシー志向は、あくまでも「痩せたい・健康に気を使いたい、でも食べたい」人用だ。「身体に悪いモノが食べたいが、体調・健康管理面でガマンしてる人」のために、母の動画はある。


「お母様って、やはり胃袋でお父様を射止めなさったの?」


 臨也イザヤさんからの質問に、わたしはうなずいた。


「うん。警察署近くの町中華で、母は看板娘をやってたの」


 制服のまま接客してるのが、かわいかったという。


「未成年に手を出したんだな?」

「アグレッシブなんだね。ヒトエちゃんのお父さんて」


 妙な誤解を招いているぞ、父よ。


「ちゃんと成人してから手を出しました! 大学の勉強を父が母に教えてて、その縁で」


 大学で栄養士の資格を取って、父と逢瀬を重ねていた。気づいたら、わたしを身ごもっていたらしい。


「働きつつ、わたしを育ててたらしいよ。弟ができて、仕事はやめたけど」

「そこから、動画を出すように」

「うん。在宅ワークの一環」


 ホントは、キッチンカーで全国を回るのが夢だったらしい。


「でも、多少は夢がかなってよかったよ」


 午後は少し泳いでから、温泉に入ろうとなった。この市民プールは、スーパー銭湯も楽しめるのだ。


「魔獣少女が出なくて、よかったですね」


 バロール先輩に、心のなかで呼びかける。


『いないに越したことはないな。どっかで退治されているかもしれないが』


 こんな無防備なところに現れたら、ひとたまりもない。


 とかいっていたら、悲鳴が上がった。


 またイヴキ様のブラが流されたのかと思ったが、違う。客がウォータースライダーから逃げていた。


『何事だ!?』

「魔獣少女ですよ!」


 ウォータースライダーの上にいるのは、水着姿の魔獣少女である。


「我が名はクラーケン族の王、【ティアマト】! 魔獣少女の頂点に立つものだ!」


 髪からではなく、身体中から触手が生えている。よく見ると、水着が無数の触手だった。一本一本が、大型のヘビくらい太い。メデューサとはまた違った、触手の持ち主だ。


「紐水着とは、またマニアックな」

『いいから変身しろ!』

「はい先輩。ビースト・クロス!」


 物陰に隠れて、わたしは変身した。


「来たか、バロールよ! 魔獣少女を大量に狩っているそうじゃないか!」

「おうさ。オレのダチを殺したのはテメエか!?」


 バロール先輩は、友人である九尾の狐ヘカトンケイルの仇を追って戦っている。


「知らんな。だが、その友とやらのところへ送ってやろう!」


 水着型の触手が、こちらへ伸びてきた。それでいい。わたしがヘイトを稼いでいる間に、みんな逃げてくれれば。


「ちょっとアンタ! 市民たちの憩いの場になんてことを!」


 ここで、臨也さんが正義感を振るってしまった。


 彼女も、わたしと同じ考えか。


「うるさい小娘だねえ! 死ね!」


 魔獣少女ティアマトが、臨也さんへ触手を伸ばす。


『やべえ!』

「行きます!」


 わたしは、臨也さんを助けに向かった。


 だが、触手に足首を取られてしまう。


 盛大に、わたしはプールサイドで転倒した。


 引き離そうとしても、絡みついてしまっている。


 刀で触手を切り落とし、臨也さん救出へ急ぐ。


 だが、無数の触手に阻まれてしまった。


 間に合わない!?


 そのとき、一台のオンロードバイクが触手を跳ね飛ばす。バイクには、顔がついていた。あれは魔獣少女か。


 バランスを失った触手を、バイクは追撃で踏んづけていく。


「え、なに? きゃっ」


 魔獣少女は、臨也さんを小脇に抱えて後部座席に乗せた。


 オンロードに乗っていたのは、やはり魔獣少女である。


「マナさん?」


 魔獣少女は、マナさんだった。

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