第21話 魔獣少女と、タコス

「なななにをいってやがる、ヒトエ。あたしが幽霊とかオバケを、ここ怖いわけあるかよ。なあ璃々リリ?」


 怖がってますよ、マナさん。


「オバケなんていないわよ。マナはなにを怖がっているの?」


 臨也イザヤさんも呆れている。


 マナさん、人間相手にはあんなに強気なのに、オバケが苦手とは。


「わたしも、オバケは診たことないんだよね。でも、この辺にいる霊たちはおとなしいから行けると思う。たいての霊って、悪さをするってのはよっぽどなの。恨みがあるとか。本当に怖いのは神様なんだけど」


 神様が現れたら、祟られるから祀らなければならないらしい。それが、日本の宗教観なのだとか。


「先輩は、そのジャンルに属してらっしゃるんで?」


 心のなかで、それとなくバロール先輩に聞いてみる。


『オレサマたちは魔王。神とは違うかな。神っぽいやつもいるが。たとえば、死神とか』

「神様いるじゃないですかっ」

『異名でそう呼ばれているだけだ。ガチの神がこんなシケた試合なんかするかよ』


 だといいのだが。壮大なフラグな気がしてならない。


 まあ、今はイヴキ様のタコスレビューに耳を傾けようではないか。 


「気になるお値段の方は? プールのフードってテナント使用料もかかって、割高なイメージがございますわ」


 庶民的な質問を、イブキ様が母へぶつける。お嬢様が割高なフード料金を気にするようには思えないが。


「お値段は、たったの一五〇円!」

「やっす!?」


 大げさに、イヴキ様が驚く。


 なんでこうも大げさに、リアクションしているのか? 


 焼けるのを待つ間に、尺を引き伸ばしているからだ。


「大奮発ですわね? 路地裏のお好み焼き屋でも、もうちょっと取りますわよ。やっていけますの?」

「いけるよー。うちは屋台。キッチンカーだもーん。だから土地を借りているだけでいいから。材料だって、そんなに費用はかからないし」

「でも、いいお肉を使っていらっしゃるのでは?」

「お肉? 使ってないよ」

「ええ!?」


 うわ、通販番組のノリだ。


「なんと、お肉もソイミートなのです! つまり大豆。汝に罪なし!」

「そんなので、味は大丈夫ですの?」

「なにをおっしゃるお嬢様? ソイミートって、あの有名なカップラーメンにも使われているのよ? ナゾのお肉って聞いたことあるでしょ?」

「……あのカップ麺のナゾのお肉って、大豆からできていましたの!?」


 知らなかった。わたしも知らない情報だ。


「では、タコスの出来上がりでーす」

「まあ、ステキ! ではいただいてもよろしくて?」

「はいどうぞー。皆さんは、娘が焼いたのを食べてみてね」


 わたしは、母が取材に応じている間に客を捌く係である。


「……おいしいですわ!」


 母のタコスをかじって、イヴキ様が目を大きく開く。


「とても大豆や、コーンミールを使ったとは思えないクオリティですわ。普通にタコスですわ。ソースが決め手なのでしょうね」


 食レポ忘れて、普通に食ってやがる。まあ、我が母の料理はそれくらいうまいが。


「お好みで、目玉焼きとトマトもいかが? どれも五〇円よ」

「ああ、いただきます。これもおいしいですわ!」


 健康的すぎて物足りない人のために、本キッチンカーは背徳の味もご用意している。


「ホントだ、うめえ。ちゃんと肉肉しい。このソースが決めてなんだろうな」


 食事にありつけたマナさんが、二つ目を食べ終える。


 ソースは秘伝だ。教えられない。


「おいしいよ、ヒトエちゃん。お料理上手だね?」


 ユキちゃんの褒め言葉に、「いやあ」と返す。母の作った具材を、詰めただけだし。


「すごくおいしいわ」


 臨也さんも恐る恐るタコスを食べて、トリコになってしまった。


 取材が終わり、自由時間となる。


「ありがとうございました。楽しい時間でしたわ」

「またいらしてね」


 イヴキ様は「はい」と言い、ラッシュガードとパレオを脱ぎ捨てた。


 わたしたち女子たちでさえ立ちくらみがするほど、イヴキ様の水着姿は素晴らしい。


「イヴキ様、センシティブすぎです」


 臨也さんが、イヴキ様の身体を隠す。


「どうです。お嬢様のボディにビビってらして?」


 イヴキ様、どうして自分が注目されているか、認識していらっしゃらないご様子だ。


「あの、イヴキ様。ブラトップが……」


 わたしが、やんわりと教えてあげる。



 あのイヴキ様が、盛大に悲鳴を上げた。

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