第三章 今度の敵はバイク! 魔獣少女の夏

第19話 魔獣少女にも夏は来る 

「ギャハハー! 熱々おでん攻撃だ!」

「ふごー!?」


 わたしは敵の魔獣少女に、おでんのチクワを食べさせられている。チクワと形容しているが、まあ「アレ」だ。


「んぐ、んぐう!」


 熱くて大きくて、辛子がキツい。


「どうだ、苦しかろう。だが、お前が苦しめば苦しむほど、アタシのパワーが上がっていくんだよ!」


 この魔獣少女、【ヒドラの王 メデューサ】は、とにかくドSだった。自分の「チクワ」と「タマゴ」を相手に食わせることに、命をかけている。


 わたしはメデューサのヘビに構えて動けなくなり、さらに頭のヘビたちに身体を拘束された。動けないまま、ただただおでんを食わされる。


「タマゴも食べてもらおうかい。これも熱いよぉ」

「ンガー!」


 あまりの熱さに、わたしは悶絶した。真夏にこの熱さは強烈すぎる。


「アタシはあんたを気持ちよくしてなんか、してやらない。苦しんでいる姿を見ながら、子種を植え付けてやるのさ。そしてアタシが魔獣少女になったら、それら子種が一気に芽吹くのさ!」


 想像する限り、最悪な未来だ。しかし!


「へん、だからテメエは魔獣少女で二番目なのさ」


 わたしとバロール先輩の人格が、入れ替わる。


「なんだと!?」

「相手を思いやらん魔獣少女が天下を取ったときは、それはまあひどいもんさ。そんな想像力も働かんやつに、魔獣少女は務まらないぜ!」


 わたしは、隠し持っていた脇差しでこっそりヘビを斬っていたのだ。


「今度はオレサマが、お前さんを縛り上げてやる!」


 帯を解き、メデューサを巻きつける。


「オレサマのおでんを食わせてやる!」


 わたしはメデューサの顔を、自分の下腹部に押し付けた。ホンモノの脇差しではなく、「脇差し」の形をした「アレ」をくわせさせた。


「んごお!」


 最初は抵抗していたが、メデューサは従順に首を動かし始める。


「Sは、Mの気質もあるんだ。覚えておけよ、ヒトエ」

「覚えたくないです、くう!」


 わたしは、メデューサの極上な舌使いに果てた。ヘビの舌が絡みついたことで、性感が増したのだろう。


 攻めを受けて、メデューサがぐったりしている。やはり攻撃されるのは弱いみたいだ。


「トドメだ。破邪・一文字斬り!」


 刀から衝撃波を出して、相手を魔物から切り離す。


 魔獣少女が、普通の女子高生へと変わった。


 あとは店員さんを呼んで、と。


「大丈夫、ヒトエちゃん?」


 友だちのユキちゃんと、水着売り場の前で合流する。隣には、御堂ミドウ マナさんが。


 今日はショッピングモールで、プールに着ていく水着を探しに来たのだ。


「すごいよね、ヒトエちゃんのお母さんって。プールに売り場があるなんて」


 わたしたちがプールに行く日は、わたしの母が売店でタコスの店を出すのである。


「イヴキ様が見学に来るって言うから、心臓が飛び出そう」


 クラスメイトのお嬢様、加瀬カセ イヴキ様は、母の店を取材しに来るのだ。動画配信者として。


「気にしたら負けだ。気を使うほうが、あいつにとっては迷惑だろう。自然体で行こうぜ」

「で、ですね」


 こんなとき、マナさんはクールだ。頼りになる。


 各々水着を選び、ユキちゃんが更衣室へ一番乗り。


「どうかな、ヒトエちゃん」


 一番左端の更衣室から、ユキちゃんが出てきた。


「かわいい。似合ってる」

「ありがとー、これにするね」


 フリルの付いた露出の少ないタンキニを、ユキちゃんは選んだ。色は白にピンクの水玉である。


「どうだろう。派手か?」


 真ん中の更衣室から出たマナさんは、大胆にも南国柄ビキニを選ぶ。


「すっご」


 超弩級のプロポーションを見せつけられて、わたしは興奮した。


「あんま、ジロジロ見るな」

「すいません。似合っています」


 わたしの隣で、ユキちゃんもコクコクと首を動かす。


「言っておくが、お前が一番ヤバいからな」

「うんうん」


 わたしは、オチ担当だと思っていたけど。


「攻めたな」

「赤紫柄ビキニとか」


 これしかなかっただけなんだが?


 レジで会計を済ませたあと、マナさんがわたしの隣に。


「大丈夫か? 大変だったんじゃ」


 マナさんがわたしを気遣う。


「平気ですよ。慣れてきました」


 朝から襲撃だったが、わたしは普通に撃退できた。


 相手が弱かったのか、わたしが強くなっているのか。

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