第18話 魔獣少女のデメリット

 戸締まりどうしようかと思っていたら、マナさんが胸ポケットからカギを出した。


「なるほど合鍵」

「昔はよく出入りしていた仲だったんだけどな」


 マナさんが、ちょっと寂しそうな顔になる。


 臨也イザヤさんの家に、バイクが停まっていた。エンジンがかけっぱなしだ。


 バイクにまたがり、マナさんはメットを被る。マナさんのバイクだったのか。


「話がしたいんだが、そんな感じではないな。もう夕方だし」


 期末が近いとはいえ、もう夕日も沈みかけていた。結構な時間である。


「すいません」

「お前が謝ることはねえよ。送っていこうか?」

「いえ。失礼します」

「そっか。じゃあな」


 バイクを発進させ、マナさんが走り去った。


 マナさんを見届けて、わたしは、一目散に家へ帰る。


 家に帰ってそうそう、スカートをたくしあげた。親は買い物に行ったのか、家にはいない。多少は声を上げても。


「もう、こんなに」


 自分の下腹部に生えた「脇差し」が、すっかり立ち上がっている。見た目こそ脇差しになっているが、実態は屹立したアレだ。鎮めないと。


 わたしは「脇差し」を握りしめる。


「刀が出てきそうで怖いですね」

『鯉口をつままなかったら刃が出ねえから安心しろ』


 軽く手を上下させただけで、快感の波が押し寄せてきた。限界も近い。


「んんんぐううっ!」


 よほど溜まっていたのか、わたしはあっさりと果てた。


 軽く背筋がのけぞり、余剰魔力が鞘の先から勢いよく発射される。


 魔力は霧散し、後は何も残らなかった。


「はあ、はあ、はあーっ」


 腰から下の感覚が、なくなっていくのを感じる。


 あれだけ刺激されて、ガマンできるはずがない。まして、相手はサキュバスだ。こっちの弱いところを徹底的に弄ばれて、いまだ興奮が収まらない。


『すまねえ、ヒトエ。おかげでスッキリした』

「はい。はああ」


 ベッドに、わたしは腰を落とす。


 無意識に、口が舌なめずりをする。


 魔獣少女になってから、ずっとこんな感じだ。


「この発散方法、なんとかなりませんかね?」


 脇差しは、まだわたしの腰でビクンビクンと跳ねている。別の生き物みたいだ。


「魔獣少女の副作用が、発情だなんて」

『不慣れな環境下で魔力を使うと、弾みで発情しちまうからな。仕方ないんだ』


 魔物たちは、慣れない地上で魔法を放つと、生存本能が危機に陥る。


 そのため、生殖機能が活性化してしまうのだ。人間がカゼをひくと、下半身が元気になる症状に似ていた。


 オスにもメスにもなれるのが、魔獣少女の怖いところである。


 実際、昔のヨーロッパや中国では、お盛んになった神様や人間のせいで、とんでもない争いに発展したという。


 かといって手頃な相手で済ませてしまうのも、ルールに反する。そのルールを守らないものもいたが、わたしが退治した。


『それより、御堂ミドウマナだが、気をつけろ』

「わかっています。ふう」


 今は、マナさんの話はしないで欲しい。あのマナさんの肢体や声を思い出してしまう。


『ヒトエ、ホントに気づいているか?』

「はい。マナさん、魔獣少女の結界に余裕で入ってこられました」


 魔獣少女は世界に被害が拡大しないために、自然と結界を張る。といっても「なんらかのアトラクションをしている」と、見た相手が認識する程度の希薄なものだが。


 それでも、人払いには役に立つ。現実世界の物質を壊しても影響はない。


 実際、臨也さんの部屋で散々暴れたものの、家具どころかベッドのシーツ一つ乱れていない。


 だが、マナさんは普通に結界へと入り込んできた。


 これは。


『あいつにも、魔獣少女としての素質があるってことだ』


 わたしは、息を呑む。


「もしくは、もう手遅れかも?」

『ああ。気をつけるんだな』


 つまりヘタをすると、マナさんにも魔獣少女になれるのだ。


『あいつの性格だと、魔獣少女になる可能性は低い。見ず知らずのやつのためには、動かないタチのようだから。だが、ゼロじゃないんだ』

「警戒しておきます。もういいですか?」

 

 また、わたしは脇差しを握り混む。


 脇差しは、すっかりビンビンになってしまっている。


『ああ。また盛りがついちまったか』

「あんな声聞かされたらもう……もうっ!」


 夕飯ができるまで、わたしはもう一ラウンド行った。

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