第13話 体育の授業を超越したバトル

 道場が、ザワつく。


「何を言っておる? 御堂は先生がお相手しますぞ。彼女も有段者ですじゃ」


 年老いた空手家教諭は、穏やかではあるが反論をした。


 先生の言うとおり、マナさんは空手二段の腕前がある。いじめっ子も、空手で撃退していたそうだ。


「警察官のお嬢さんで剣道の使い手と、空手の有段者。二対一で結構、と申したのです。それくらいのリスクを味わいたいのです」

「リスク? それだけ危険な目に遭いたいと?」

「でなければ、財閥のトップには立てませんわ」


 空手教諭は、呆れている。


「危なくなったら、いつでも止めますぞ」

「結構。マナさん、前へ。どなたか、御堂さんにもプロテクターを貸して差し上げて」


 マナさんがプロテクターを付けた直後、試合が始まった。


 二人並んで、イヴキ様と向かい合う。


「お待ちになって」と、イヴキ様がこちらに歩み寄る。わたしたち二人の間に向かって、手を払った。


 何事かわからず、わたしたちは棒立ちに。


「お二方、場所をお開けになって」


 なんとイヴキ様は、わたしたちの間に入って試合を開始するというのだ。どこまでオス度が強いのよ、この人。


 わたしとさんが向かい合い、その間にイヴキ様が立っている状態だ。


「いつでもどうぞ。できれば、お二人同時に」


 イヴキ様の合図で、試合が始まる。


 わたしは挟み撃ちで、イヴキ様に殴りかかった。


 マナさんは、ハイキックを背後から繰り出す。


 イヴキ様は後ろからの蹴りをヒジでガードしつつ、わたしの拳を払う。


「え?」


 ヒジを曲げて、わたしのノドを抑え込んだ。そのまま、後ろへ押し込む。


 ドンと押し込まれて、わたしは尻餅をつく。


「コイツの技、空手じゃない! シラットだ!」


 シラットとは、東南アジアで普及した、王宮を守るための格闘術ではないか。


 体育の授業でシラットとか、どんだけ殺意高いんだ! 型稽古でいいじゃん。


「このやろう!」


 マナさんはヤケになって、ミドルやハイを徹底的に繰り出す。相手がいくらヘッドギアを被っているとはいえ、ちょっと過激すぎないか? 脳は揺れてしまう。


「動きが雑になってきましてよ、御堂さん!」


 しかし、イヴキ様は意に介さない。ミドルはヒザで崩し、ハイは足をつかんで投げ飛ばす。


 わたしもちょこちょこ攻めにかかるが、二度とも腹へのキックで押し倒される。


 異次元の戦いに、道場内は言葉を失っていた。生徒の安全を守るはずの教諭が、この戦闘を止められずにいる。


 といっても、両者ともギリギリを攻めていた。殺意こそ高めだが、踏み込んではいけない領域は心得ているようだ。そこはやはり、格闘家としての誇りだろう。


 こちらも、負けるワケにはいかない。剣道場の看板を背負っている。


 わたしは殴りかかった。


 再び、腹へのケリが襲ってくる。


 相手のキックに対し、わたしは拳の握り方を変えて弾き飛ばす。


 イヴキ様の顔が歪んだ。即座に、足を引っ込める。


「古武術、ですわね」


 足のシビレを気にしつつ、イヴキ様がこちらに意識を向けた。


「剣術って、剣が手から離れたときの対処法も教えるので」

「あなた、やっぱり面白いですわ。わたしが探し求めていた方かも」

「……?」


 イヴキ様が、本気になったのがわかった。カウンター一辺倒だった攻撃が、一気に攻めへと転じる。


 わたしも古武術で対処した。


「やりますね。さすがですわ!」

「それほどでも」

「謙遜なさらなくても。相手を受けつつ攻撃する手足にダメージを与えて、スキあらば自分から仕掛けてくるその姿勢、見事ですわ!」


 えらいわたしを買ってくれるなあ、イヴキ様は。


 しかし、慣れないアジア格闘術に翻弄され、思うように反撃ができない。プロテクターをしていない箇所を狙われ、手も足も動かなくなってきた。


 この人、そこらの魔獣少女より強くない!?


「とどめですわ。来栖さん!」


 前蹴りが、わたしの胸にめり込んだ。


 重力に引き寄せられるかのように、わたしは抵抗もできずに後ろへ倒れ込んだ。


 ああ、これは死んだか?


 倒れた私に、イヴキ様が馬乗りになる。拳を振りかぶった。


 やべ、反撃を――。


「そこまでだ!」


 マナさんが、試合を止める。


 そこで、わたしは意識を手放した。

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