第9話 魔獣少女、キメラと対峙する

 三人の魔獣少女は、御堂ミドウさんに迫った。どんどんと逃げ場をなくしていく。


 彼女たちは、「三体」と形容したほうがいいかもしれない。それくらい少女の要素がなく、異形に近かった。


「なんですか、あれは?」

『さあな。オレサマもよく知らん。でもどっかで……』


 ゴスロリ一つ目幼女バロール先輩をもってしても、わからない種族のようである。


『ヒトエ、とりあえず準備しておけ』

「はい」


 変に飛び出して、御堂さんに魔獣少女だとバレたらかなわない。ことの成り行きを見守ろう。


「三人で寄ってたかった、なにしようってんだ!」


 化け物三体に囲まれていながら、御堂さんは動じない。相手をにらみつつ、脱出の機会を伺っているようだ。


「テメエら、加瀬イヴキと同じ学校の奴らじゃねえか! ケケケ! こりゃあいい! まずはテメエらからだ!」


 魔獣少女の一人が、御堂さんに凄む。


 険しい顔で、御堂さんはギャルたちを守っている。


 が、ギャルたちはすっかり怯えてしまっていた。


 これはわたしの出番か?


「逃げろ!」と、御堂さんはギャルたちを後ろへ逃した。


「一人だけで、アタシらに挑もうってか?」


 魔獣少女三体が、ゲラゲラと笑う。


「あたしら熊井第三高校、八木ヤギたん、ヘイヘイ!」とヤギがナイフを構える。


「エルカ、へいへい!」と、カエルが同じポーズに。


カズラ おーおうおおっ!」と、カラスがナイフを重ねた。


 魔獣少女が、組体操よろしく一体にまとまる。


「我ら、キメラ族最強の魔獣少女【バエル】! 最強の力を手に入れたアタシらに、ボコられちまいな!」


 三位一体となった魔物が、御堂さんに殴りかかった。


 運動神経のいい御堂さんは、ぱっと身をかわす。


 ゴミ箱が吹っ飛び、ネコや通行人に生ゴミが降り注いだ。


 周りの人々が、怪物の存在に気づいて逃げていく。


『バエル……思い出した。ヤツらは【キメラ】だ!』

「キメラってあのキメラですか? ファンタジーなんかで出てくる」


 聞くと、『そうだよ』とバロールが答える。


『三人で一人の複数の怨念が寄り集まって、強さを増している』


 だとしたら、人間が敵う相手ではない。まして無関係の御堂さんに、ケガをさせるわけには。


「あんたらを痛めつけたら、加瀬イヴだって恐れおののくだろうよ!」

「加瀬イヴキのヤロウ、見つけたらメチャメチャに辱めてやる!」


 街の看板や標識を壊しながら、魔物は御堂さんを追い詰めていく。


 なんだか、イヴキ様に対する怨念が強いような。


 ひょっとすると、本当のターゲットはイヴキ様なのかも。


『ヒトエ、変身しろ!』

「あの掛け声、またやるんですか?」


 刀を装備して、わたしはためらう。


『いいだろうが。それがスイッチなんだから』


 仕方ないか。わたしは、刀を抜く。


「ビースト・クロス!」


 わたしの制服が、光の粒子となる。脱げるからイヤなんだよなあ。デリケートな部分を隠し、魔獣少女のプロテクターへと変わっていった。それでも、見られているようでイヤだ。


 革製のミニ浴衣姿に、衣装が変化した。刀の鞘は、ウォレットチェーンのようなゴツゴツした鎖で浴衣と繋げている。


 わたしと、バロールの人格が入れ替わった。


 しかし、悠長に構えてばかりもいられない。


 壁に追い詰められ、御堂さんは逃げ場がなくなった。


「とうっ」


 バロールは前蹴りで、魔獣少女を蹴り飛ばす。


 攻撃に寄る衝撃波で、御堂さんが転倒する。


「今のうちに逃げやがれ!」


 後ろにいる御堂さんに、バロールが声をかけた。


「え、来栖クルス

「人違いだ! いいから行け!」


 立ち上がって、御堂さんが走り出す。


 これでもう安心だろう。目一杯暴れられる。


「なんだ、テメエも魔獣少女か! 三人分のパワーを得て、魔獣少女最強となったこのキメラに挑むとは!」

「はん、貴様らなんぞ三人集まろうが、魔獣少女としては二番目だ」

「なにい!? だったら証明してみせろ!」


 キメラが、わたしに襲いかかってくる。

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