第8話 魔獣少女と、お嬢様
「イヴキ様が」
生徒たちが、ザワついている。彼女のカリスマぶりに、生徒たちは自然と彼女をイヴキ
しかし、イヴキ様は
イヴキ様がノーモーションの裏拳ビンタを放ち、御堂さんに炸裂したのである。
「……にすんだよ!」
頬を腫らした御堂さんが、イヴキ様に食ってかかろうとした。
「だまらっしゃい」
相手を殺すかのような目で、イヴキ様が御堂さんを睨む。
それだけで、御堂さんは硬直した。ギャルといえど、お嬢様の迫力には気圧されるのか。
こういうのも、火星でやってくれないかな。わたしの隣でするなよ。別の星でケンカしてくださいお願いします。
「ビンタレベルかよ。マニキュアは!」
「爪のお手入れ程度に関しては、とやかく言うつもりはございませんわ。ご自由にどうぞ」
それよりも、とイヴキ様は御堂さんを見据える。
「あなた、
言いながら、イヴキ様はスマホをカバンから出した。
「だからどうした?」
「聞き捨てなりませんわね。わたくし、ちゃんと犬を飼っておりますの」
御堂さんに向けて、イヴキ様はスマホを差し出す。
「こちらは、アダムスキー。セントバーナードのオスですわ。まだ三歳ですのに、わたくしよりデカいんですのよ。お散歩大変」
「うっ」と、御堂さんが後退りする。
「あら、犬はお嫌いかしら?」
「ほっとけよ」
「まあ、いいですわ」と、イヴキ様はスマホをカバンへしまう。
「璃々とわたくしは同じ生徒会。しかし、担当が違いましてよ。わたくしは生徒会長。璃々は風紀委員長」
「けど璃々の父親は、あんたんとこの傘下になったじゃねえかよ」
加瀬 イヴキは財閥の令嬢、いわゆるセレブである。
臨也さんのお父さんがピンチになったとき、イヴキ様の一家が助けたとも。
「だからといって、子どもまで上と下に分ける必要がございまして?」
イヴキ様が、強い口調で言い返す。
「というわけで、今後璃々を犬呼ばわりなさらないでくださいまし。彼女とわたくしは、対等な立場にあります。犬は犬、璃々は璃々です。お忘れなきよう」
「……わかったよ」
聞き分けよく、御堂さんは臨也さんに頭を下げた。
「悪かったな璃々」
「こちらこそ、怒鳴って悪かったわよ」
二人が仲直りしたのを見て、イヴキ様は満足げである。
とはいえ、二人が本心からわびている風に、第三者的には見えないのだが。
「先生がお見えになりますわ。席に付きましょう。あら、そうそう」
イヴキ様が、わたしの席に目を向けた。さっきとは打って変わって、笑顔で。
「
「はい。光栄です」
先生が入ってきたので、全員が席についた。もちろん、御堂さんも。
御堂さんの取り巻きギャル数名が、「気にしちゃダメだよ」と声をかけた。
首をただ縦に振って、御堂さんはこたえる。
放課後は、ユキちゃんと一緒にハンバーガー屋で勉強した。
「やっぱりイヴキ様、怖いね」
ユキちゃんと、加瀬イヴキについて話し合う。
どうして加瀬グループの令嬢がそこそこな進学校にいるのかは、事情があった。
彼女が転校してきたのは、一年の頃だ。なんでも前の学校でいじめがあって、加害者・見て見ぬふりをした全校生徒及び教師を半殺しにしたことが原因だとか。
本来なら、退学処分である。しかし、
本人が「いじめっ子が文化祭でいじめ対象の髪を、焼き鳥の屋台で焼いたから」と答えている。自慢気には語らないが。
彼女なりの善悪があるらしく、侮辱系の出来事があったら容赦がない。
朝の言動も、御堂さんが臨也さんを「犬」と罵ったからだろう。
だが、彼女のスイッチはぶっちゃけわからない。
「あー。わたし大丈夫かなぁ? 当日は、わたしも撮影を手伝うんだよねえ」
「心配ないって。ヒトエちゃんの高感度高いから」
「相手にされてないだけってことない?」
「ないない。イヴキ様、ヒトエちゃんを気に入ってるみたいだよ?」
どうだろう。ていのいいオモチャと思われていないだろうか?
腕を枕にして、窓に視線を移す。
窓の下にいる人を眺めた。あの人は……。
「どうしたの、ヒトエちゃん?」
ユキちゃんが声をかけてきた。
「なんでもない」と返す。
「用事を思い出したよ。帰らないと」
さて、と。
「じゃあね、ヒトエちゃん」
「バイバイユキちゃん」
ユキちゃんと別れて、わたしは路地裏へ急ぐ。
『ヒトエ。この付近に、魔獣少女の反応が出た』
「うん。見つけ出しましょう」
もし近くにいるなら、大変だ。
ユキちゃん以外にも、クラスメイトを発見したから。
路地裏に、魔獣少女を見つけた。
数は、三人。一体はヤギ、一体はカラス、最後の一体はカエルの擬人化である。
少女たちは三角形状に、女子学生を取り囲む。
その一人に、わたしは見覚えが合った。
「やっぱり、あれは御堂さん!」
御堂さんとギャル数名が、化け物に囲まれている。
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