第二章 魔獣少女と、サキュバスギャルとの熱烈な密着!

第7話 魔獣少女と、ギャルと風紀委員

 で、冒頭の直後に戻る。


 これまでわたしが倒した魔獣少女は、三体。そのうち一体は、わたしのクラスメイトだった。


『それにしてもヒトエ、前回のセイレーン戦はヒドかったな』

「あなたのせいでもあります、バロールさんっ。挑発して、結局大ピンチとか。あれはヒドすぎます」


 しかもセイレーンがわたしを狙った動機は、「おかっぱキャラがかぶるから」とのこと。たしかに、あの魔獣少女はセイレーンというより「カッパ」だった。


 翌日になると、その女子生徒はピッグテールになって垢抜けたキャラに。生徒の友人にそれとなく聞くと、「昔はああだった」らしい。暗い感情は、取り憑いていた魔物が与えていたのだろう。


「西洋の魔物って、日本だと妖怪にカスタマイズされるんですか?」

『そうなんだ。アヤカシってのか? そういう風にオレサマたちはリデザインされるらしい』


 今のデフォルメされたバロールも、ボンテージの単眼女子だ。 


『見た目なんて、関係ねえんだよ。それより、まだまだお前さんの修行が足りねえ。もっと強くなってもらわねえと』


 それは、わたしが一番実感している。


「先が思いやられますねえ」


 今のところ、魔獣少女の騒ぎは起きていない。立て続けに三体出てきて、イヤになったが。


 このままだと、強い魔獣少女にあたってすぐに負けてしまいそうだ。


 とはいえ、平和が一番である。このまま何事もなければいいのだが。


「おはよう、ヒトエちゃん」


 ハツラツとした少女が、わたしに声をかけてきた。


「おはよ、ユキちゃん」


 クラスメイトの、藤白フジシロ 由紀ユキちゃんである。


 二年C組の教室に入って、窓際の席へ移動した。わたしは一番後ろで、ユキちゃんはその隣だ。


 わたしは学校では、目立たない。ユキちゃんはそれなりに人間関係を維持しているが、一番親しいのはわたしである。


「最近眠そうだね、なにかあった?」

「なんでもないよ。ちょっと勉強で疲れてて」

「そっか。期末近いもんね。勉強教えてもらおうかな?」

「うーん。ユキちゃんの方が頭いいじゃん」

「英語はてんでダメで」


 ガラガラピシャン! という音とともに、教室じゅうの雑談が止んだ。


 ギャルの御堂ミドウ マナさんが、教室に入ってきた。デンと、わたしの隣に座り、机に足を置く。


 黒髪ロングの女子生徒が、腰に手を当てて御堂さんの前に立った。


「ちょっと御堂さん! マニキュアは禁止ですよ!」


 風紀委員を務める臨也イザヤ 璃々リリさんが、御堂さんの格好をたしなめる。


「んだよ、うるっせえな。どんな化粧してこようが、ウチの勝手じゃん」


 座ったまま、御堂さんは臨也さんを見上げた。あくまでも、御堂さんはファッションでごちゃごちゃ言うなと主張する。


「匂いが出ないコスメ選んでるし、教室でもしゃべんない。迷惑かけてませんけどー?」

「それでも、あなたは風紀を乱しています。爪のメイクを落としなさいよ」


 化粧水の瓶を、臨也さんは御堂さんの机にコンと置く。


「胸のボタンも開いているわ! ブルーのブラが、だらしなく見えているのよ! ここは中学の時みたいに、女子校じゃないの! ちゃんと男子の目線も考えてください!」


 御堂さんは、「チッ」と舌打ちした。


加瀬かせの犬がよ」


 臨也さんを、御堂さんは下からにらみつける。


「なんですって!? もういっぺん言ってみなさいよ!」


 御堂さんの足を、臨也さんが手で払って机からどかせた。


「なにすんだよ!」と、御堂さんが立ち上がる。

「どうして、そんなになっちゃったのよ! 中学の時は、明るい子だったじゃない! 私が共学高を選んだからスネてるの!?」


 まったく物怖じせず、臨也さんも御堂さんに立ち向かう。


「ウチは今でも変わらないっての。変わったのはテメエだろ?」


 凄むように、御堂さんがささやきかけた。


 うわあ、朝からひどいな。


「その辺になさい!」


 金髪縦ロールのお嬢様然とした女子生徒が、教室に入ってきた。


 重い空気が、一斉に晴れていく。


 加瀬カセ イヴキ様のご登場だ。


「御堂さん」

「んだよ」


 パアン! と乾いた音が教室じゅうに鳴り響いた。

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