第4話 魔獣少女、逆転

 魔獣少女は命のやり取りをしている故に、万年発情期なのだという。常に、子孫を残すことを最優先するのだ。


「オレサマたち魔獣少女は、次世代の頂点を決めるバトルをしている最中だ」


 しかし、それは「メスを探す」意味もあるという。


「女の子同士で、そんな」

「だが、特別に力が与えられる。その……子作りの」


 あくまでも擬似的なものだが、それっぽいモノは腰に顕現してしまうそうな。 


「もしも魔獣少女に純潔なんざ奪われたりなんかしたら、そいつの性ドレイになっちまう。最悪、妊娠だ」


 もちろん魔獣少女としての資格を失い、頂点を決めるバトルには参加できなくなる。


「大ピンチじゃないですか!」


 口では拒絶しているのに、好奇心のほうが勝っていた。もう、立っていられない。


「どうすれば?」


 わたしは腰が引けて、足をモジモジさせる。


「あれは、一発食ってやればいい。あのどデカいフランクを腹に詰め込めば、こっちだって大人しくなるだろう」


 相手の魔力も奪えるという。


「口で、ってことですか?」


 あれを、食べる? ラム肉って、食べたことないよ。イタリア系ファミレスで食べている人を見たけど、匂いをかいで癖が強いなって思って頼まなかった。


「慣れれば案外、ラムっていけるもんだ」

「そうは言いますが」


 しかし、今はその方法しかない。


『観念したか?』


 ラム肉のフランクを、グンと顔に押し付けられた。


 わたしは、覚悟を決めてそのフランクを口で包み込んだ。


『おっふ。殊勝じゃないか。天下のバロールが、私のジンギスカンをくわえてくれるなんて』


 征服欲を満たされたのか、サテュロスがこちらを見下ろして悦ぶ。


 ああ、弾力がすごい。舐めると余計に匂いがきつくなってきた。でも、悪くない。かじると、肉汁がジュワッと溢れてくる。


『い、いいぞ。いいぞ! うまいじゃないか。これまでどんな男どもをトリコにしてきた?』

「はあ、はあ。初めてです」

『なんと! その豊満な身体を、誰にも捧げずに。お前、素質あるよ。私の専属オモチャにならないか?』

「お断りですぅ。早く終わって。はむう」


 わたしが首を上下に動かすと、相手も腰をカクカクさせてきた。


『お、くるくるう!』


 早い。チーズが駆け巡ってくるのがわかる。


『ぬふうっ!』


 サテュロスがうめいた瞬間、ドップ……とチーズがわたしのノドを焼く。


「んぷう!」


 あまりの勢いに吐き出しそうになったが、しっかりと受け止める。


「はあ、吐き出す、な。これは、魔力のカタマリだ。全部食えば、相手を弱らせるこ、とができるぜ」


 バロールも苦しそうだが、耐えた。ミチミチに中身が詰まったソーセージを、噛みしめる。


『はあ、はあ! すごい。これが、かつて魔王と呼ばれた女のバキュームッ』 


 しかし、サテュロスにだんだんと余裕がなくなってきた。


「ま、待て。ん待って!」


 JKの声に戻っている。


「ダメ、ンダメエ!」


 腰がビクンビクンとなって、JKはわたしを引き剥がそうとした。声もうっとりした感じになっている。気持ちいいのではないのか? それにしても、悩ましい。もっといじめたくなる。


「なんなんれひょう?」


 すっかりしなびたチーズフランクを、わたしはさらにしごく。


「これはな、賢者タイムだ」


 魔獣少女は、一度魔力を放出してしまうと、充填時間となる。その間は、全身が敏感になっているそうだ。ちょうど、達した直後の男性のように。


「もっと、食ってやれ。本音は気持ちいいんだ。見ろよ。すごい嬉しそうだろ?」

「そうですね」


 わたしがジュボジュボと食べるたびに、JKの腰がハネる。もはや、怖かったサテュロスの気配を感じない。


「また、また出る!」


 サテュロスの全身が、ビンと直立する。


 コッテリしたチーズが、打ち止めの合図だったようだ。サテュロスが、ヒザからドサリと崩れ落ちる。その姿に、こちらへの攻撃意思はない。


 結局わたしは、フランクを全部食べてしまった。夕飯食べられるかな?


 口角についたチーズも、ペロリと舐め取る。


 その光景を見て、サテュロスはさらにビクン、と反応していた。


「さて、反撃開始だ。刀を自分の前にかざせ」

「はいっ」


 わたしは、刀を正面に構える。


 目から、緑色のビームが発射された。そのままバロールは、刀身に光線を浴びせる。


 刀が、緑色に光った。


「そいつを振り下ろせ。そしたら衝撃波がババっと出て、変身が解ける」

「殺したりしない?」


 相手を傷つけるなら、嫌だな。


「死にはしない! 相手と魔獣少女との関係を断つだけだ」


 ならばいいか。わたしは、刀を頭の上へ持ち上げる。


「最後に聞く。オレサマのダチ、九尾の狐ヘカトンケイルを殺したやつに心当たりはあるか?」


 サテュロスは、ただ首を振るばかり。


「ウソをつくな!」

『ホントだ。ウソじゃない!』

「そうか。だったら用はない」


 相手を一直線に切り裂くように、わたし、というかわたしの身体を借りたバロールは素振りをした。


「くらえ、邪眼・一文字切り!」


 ホントに、緑色の衝撃波が出る。サテュロスの身体を駆け抜けていった。


「んひい!」


 サテュロスは、JKの身体から出ていく。



 同時に、太ったJKだけが残った。


「死んだんですか?」

「いや。気を失っているだけだ」


 辺りの景色も、みるみる変わる。工場跡だと思っていた場所は、市民公園だった。児童たちが、母親とともに遊具で遊んでいる。


「ともあれ、初討伐お疲れ、ってとこかな?」


 わたしの目から、ポンッと緑色のマスコットが飛び出してきた。


「姿を見せたらヤバイですよ!」

『いいんだよ。これは会話用の幻影だ』


 本体は、わたしの中に眠っているという。 


『改めて、オレサマは狭窄公きょうさくこう【バロール】。魔王の一人だった』


 だった……か。


「友人を殺されたんですね?」

『ああ。魔王候補の誰かにな』

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