第3話 魔獣少女、対面の時
『ボサッとするな。大物が来るぞ!』
鉄骨とコンクリートが破壊されて、黒い生命体がノッシノッシと巨体を揺らす。
影の一体であるモコモコが、巨人の頭部に飛びつく。アフロの巨人ができあがった。一昔前の格ゲーで見たことがある姿に。
『これが、ヤツらの本体らしいな』
「こいつら、何なんです?」
『魔獣少女のしもべだ』
彼らは異世界から突然飛来し、対象者の心の弱さにつけ込んでくる。そうやって取り憑き、養分を取り込むのだ。
「あのアマァ。私の許可なくあいつに告白されて! 許せない!」
魔物が、姿を現す。まるまると太った女子高生の頭に、羊の角が生えていた。
『あれは【サテュロス】っていう、羊型の魔獣少女だな。欲情の塊を具現化すると、あの姿になる」
「アフロヘアに、ですか?」
『魔獣少女ってのは、いろんな形があるんだよ』
バロールがサテュロスと呼ぶ眼前の悪魔は、アフロヘアのデブだ。
「あの人は……」
『知り合いか?』
「全然。彼女の友だちの男子が、わたしに交際を迫ってきたんです」
中学時代の自分に言い寄ってきたイケメンの、友人だった女子だ。今では見る影もないが、雰囲気からして間違いない。
「聞いたことがあります。その男子が私をフってから、あの子、自分を見失って随分荒れたと」
わたしはイケメンの告白を断り、男子の方も納得してくれた。
あのまま交際しているものだと思っていたのだが、そうはならなかったようだ。
そこへ、あのアフロ魔獣が付け入ったのか。
『フラれた自分を、受け入れられなかったんだな?』
「だと思います。一途だったので」
美少女たるゆえ、汚点を許せなかったのだろう。
『完璧主義も、行き過ぎるとこうなるんだな』
「考えたくないですね」
『なんでソイツをフッたんだ?』
「イヤですよ。学校中に白い目で見られるなんて」
とにかくわたしは、目立ちたくなかった。それゆえ、どれだけカッコイイ男子に告られても女子の輪を乱すわけにはいかなかったのである。それだけだったのに。
「それに、わたしに因縁をふっかけてくる女子生徒がいて」
『あいつか?』
女子は生活習慣が不規則になり、誰からも振り向かれない姿になってしまった。あんな風に。
それにしても、魔物と契約なんて。
『不思議で仕方ないだろう? そんなもんなのさ、魔物ってのは。相手の一番弱いところを突き、取り込んでしまう。相手の願望を叶える代わりに、相手を自分の血肉としてしまうんだ』
現代社会に、魔物はそのまま顕現できない。魔王となってようやく、現実世界でも本来の力と姿を取り戻せるのだ。
「じゃあ、あなたは特に優しめの魔物さんなんですね?」
『なんでそう言える?』
「何も要求してこなかったので」
わたしが指摘すると、バロールは露骨に慌てる。
『こ、これから要求するの!』
「ふうん。まあ、いいですけどね」
『ごちゃごちゃ言うな。対決するぞ』
「はい」
わたしは、刀を構えてデブの前に出た。
「見つけたああ! わたしの指示なしにケンヤと話したクソ女!」
「へん。魔獣少女の本性を現しやがったか、サテュロス!」
バロールが、わたしの声帯を使って話す。勝手にノドを使われたが、痛みやらかゆみやらはない。
『ほほう、私がわかるのか。貴様は?』
「狭窄公っていえばわかるかい?」
その名前を聞いて、相手は露骨に嫌な顔を見せた。
『あの、同胞を退治して回っているクソヤロウかい?』
バロールに、そんな過去が。
「そうだ。テメエらに魔王殺しの汚名を着せられ、逃げ回っていた。だが、それも今日で終わりだ。ダチの敵は、オレサマが取る」
『なにをバカな!』
バロールを恐れていないのだろう、サテュロスは不敵に笑った。
『勝てると思っているのか。この異世界最強と言われた、サテュロスに?』
自信ありげに、サテュロスはバロールを見下す。
だが、もっとエラそうにバロールは告げた。
「ああ。テメエは、世界で二番目の魔獣少女だからな」
相手に手の甲を見せて、Vサインをしながら。
『二番目? この私がか?』
「ああ、そうだ。二番目がエラそうにしちゃあ、いけないぜ」
『ほざけクソヤロウが!』
また、ニョロニョロの影が迫ってくる。あの細い影は、この魔獣少女が出していたのか。
「くっ!」
避けた……と思ったのだが、影が服をかすめた。
「思っていたより、動きが鈍いな」
「そりゃあそうですよ! 魔獣少女、ですか? なりたてホヤホヤなんですから!」
いきなり「機敏に動いて戦え」といったって、今まで平凡に過ごしてきたJKに華麗なファイトを求められても。
「戦闘服が!?」
魔獣少女のバトルスーツが、足から胸元までスリットが入っていた。バリカンで切り裂かれたみたいになっている。
『あはは。魔王バロール、サイクロプス族の頂点が、たいしたことないな』
ニヤニヤ笑う。
また影が放たれた。
バトルスーツが、ドンドンとカットされていく。
『いい見世物だ。そそるじゃないか。天下のバロールが、こんなにナイスバディだったとは』
サテュロスの腰から、何かが突き出た。デロンと、屹立している。
あれは、ジンギスカンのチーズ入りフランクフルト(意味深!
チーズフランクが、ラム肉独特の匂いを放つ。
逃げないと。そう思っているのに、目は完全にフランクへ釘付けになっていた。
身体も熱くなっている。
ヘソの下が、うずいて仕方ない。
「どうなってるんです? バロールさん、あなたのせいですか?」
「ああ。発情期だ」
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