第135話 最終兵器投入

 「スイリョウさーん‼結婚しましょう‼」

 風物詩になりつつある、お子様プロポーズが聞こえてきた。

 自室でスイリョウは耳を塞ぐ。

 自ら言っていたが、スイリョウは宗近を嫌いじゃない、むしろ好きで愛している。

 こう言う馬鹿な部分ごと好ましいと思っていても、結婚となると話は別だ。

 「ああ、もうしつっこい。」

 家が怖いだけなので、迫られると困るのだ。

 少し嬉しかったりするのが更に困る。

 どうあっても受け入れられない。

 だから困る‼

 ただこの日は、ついに最終兵器が投入されていた。

 「姉さん」と、部屋の前に来たのはゲツレイ。

 平良藩に付いて行っている以上、こう来ることは予想していた。

 ただ、出来ればより幸せに、安心出来る状態になって欲しいから、策に乗る。

 「宗近、お父さんとお母さん、連れてきてるけど。」


 スイリョウは破天荒な酔っぱらいを演じていただけで、根底は常識人の、(否定したいだろうが)どこまで行ってもオウ大使の娘だ。

 家格が高く教育もされている以上、藩主とその妻を放っておくことは出来ない。

 そこまで良識を無視出来ない。

 本当に渋々ではあるが、

 「こんにちは。初めまして、王翠涼です」と、玄関先まで出向くと、

 「キャー、初めまして‼この娘なの、四郎‼聞いていた通り、すごくキレイなお嫁さんね‼」と、テンション爆上がりなのが、宗近の母らしい。

 着物姿の、背筋がきちんと伸びた女性だ。

 って言うか、『お嫁さん』じゃない。

 天然なのか、

 「四郎がしょっちゅう自慢してきて。色々聞いているから、微に入り細に入り」と、問題発言が続く。

 思わず、落としていたテンションが保てなくなる。

 「ちょっ‼なに話してんの、宗近‼」と、妊娠が大使にバレて以来の、ごく当たり前の会話が……

 嬉しすぎたのだろう。

 泣きそうに笑う宗近がいる。

 「やっと普通に話してくれたね、スイリョウさん。」

 「う……」

 本当に……まいった……

 「申し訳なかった」と、ここまで置物と化していた父親が頭を下げた。

 「あ、これ、私の父親です。平良藩藩主。」

 江戸幕府が終わり、大名行列の必要は無い。

 だから、

 「連れてきちゃったんですよ。」

 「いや、そんな偉い人、軽々しく連れて来ちゃ駄目でしょ。」

 「いや、私が愚かで因習に縛られてばっかりに‼」

 ガバッと土下座までする好隼。

 「どれだけの人間を不幸にしたか知れない。君も大手を振って大切にされて当たり前のところを、身を引く決意までさせた。

 申し訳なかった‼」

 「え……いえ、そんな。」

 本気で地べたに頭をつける好隼に、スイリョウはひたすら困惑した。

 「これからは私の愚鈍な異母弟が藩主になって、私は臣下に下るから。普通の一般の役人だ。大丈夫だよ」と宣言する息子に、

 「待て‼それだけは拙い‼」と、父が叫ぶ。

 「待たないよ。そう言う約束だろ?」

 「それでも拙いって‼あいつらじゃ絶対藩が潰れる‼お前が継いでくれ‼」

 「えーっ、嫌だよ。もう新しい名字も考えたんだ。平家とか。」

 「それ、壇ノ浦の合戦で滅んだ方‼」

 「いいじゃないか?『平らで良し』から『平らな家』。目標小さくて。」

 「目標は大きく‼頼む、宗近‼必要なら家臣全員に頭を下げる‼全力で守る‼頼む‼」

 親子漫才のようなもめ事が始まった。

 呆気にとられていたスイリョウと、宗近の母・はるが……

 顔を見合わせ、笑った。

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