第134話 内紛‼平良藩‼

 「私が世話になっている清国大使館の方ですよ。」

 嘔吐してもがき苦しみ、動くことが出来ない家臣達。

 藩主直属の警備担当者である彼らは、言わば平良藩の最高戦力だ。

 それが一瞬で、童としても小さな少女に制圧されて、さながら地獄絵図の中宗近が笑う。

 「そして、私が妻にしたい方の妹でもあります。」

 喧嘩を売りに戻るのだ。

 帰郷前に宗近は大使館に相談し、ジュンケンかゲツレイの貸し出しを願い出た。

 職種は用心棒で、しっかり報酬も払うと。

 「私が行こう。弟はあれでも新婚だ」と、面倒くさそうに付いてきてくれたゲツレイだったが、見事期待以上の働きを見せてくれた。

 「父上は古いですよ」と、息子は畳みかける。

 「古いだと?」

 「家がどうの、長男がどうの。家のためならと血縁者にまで刃を向けるのは、さながら戦国時代ですし。300年ほど遅れています。」

 「……」

 「本当なら廃嫡していただきたいところですが、あなたの事はともかく、私は民は好きなんですよ。

 彼らを不幸にしないために、第2の提案があります。」

 まず、自分以外の誰かを、側室の子を跡継ぎにすること。

 宗近自身は今回の政変を早めに知り、金を大量に隠し持っている。

 それを民に還元するため、臣下に落ちて財務担当になること。

 「平良姓も捨てないとな……」

 こういう時も宗近は宗近だ。

 次はなんと名乗るか考えていると、

 「それは無理だ‼」と、父親が言う。

 「側室の子は全員元服しているが、2人は愚鈍で字も読めない‼1人は欲ばかり深く残忍だ‼あいつらじゃ藩主に向かない‼」

 「私も向きませんよ」と、宗近。

 「って言うか、そういう風に育てた……いや、育てなかったんでしょう、父上は?」

 「うぐっ。」

 「なら文句を言う資格もないんじゃありませんか?」

 後悔は先に立たない。

 定型に縛られて、考えることを放棄して、まともに息子を育てなかった罰が今当たった。

 「私は国で父親を殺しているが……」

 珍しく、ゲツレイが語った。

 「父は上海マフィアのボスだった。こちらで言うヤクザものだ。襲ってきたから殺害した、それだけだが……」

 今初めて小刀を抜く。平良藩の家臣達を殺す気はなかった、と言うことだろう。

 その輝く刃を見つめながら、

 「あんな親父でも、幼い頃は守ってくれようとしたこともある。気紛れでも親子だったことがある。

 殺したことは後悔していない。そうしなければ私が死んだ。

 でも、」

 「……」

 「他の結論はなかったかと、時々思う。いや、ただの感傷だ。」

 大きくため息をついた少女から、珍しいお節介だった。

 「君達親子はまだやり直しがきくんじゃないか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る