第133話 ある意味1番ヤバイ息子
先ぶれもなく、また3男が来た。
3男……平良四郎宗近は、側近の中野紋次郎と、背の小さい、元服前なのかもしれない、子供を1人連れている。
「彼は?」
「……」
「ああ、縁あって従者にした子です。」
子供は顔を隠すように、すっぽり頭巾で覆っている。
怪しいことこの上無いが、
「ああ、顔に傷があるので、殿様に見苦しいものを見せるわけにはといけない、と言って。」
立て板に水の説明に、黙るしかなかった。
『まあ、童としてすら小さいし、脅威はあるまい』と、好隼は判断する。
謁見用の大広間で対峙する。
好隼側は主だった家来を5名、宗近側は本人込みで3名だった。
「で?今回は何用だ?」
嫁の話なら前回で終了だ。
梃子でも考えを変えない3男に辟易とし、仕方なしに頷いたものの、証文を交わしたわけではない。
いずれ強引にでも隣藩の娘を……
よからぬことを思っていると、息子はさらに上を行った。
「父上、私は宣戦布告に来ました‼」
「は?」
宣戦布告など、意味が分かっているのかと、家臣達まで妙な表情になる。
宗近は意に介さず、
「私が妻にしたい方が、いつ寝首をかかれるかわからない、藩主の嫁など怖いと言いました。跡継ぎだなんだと平和裏に継承しても、派閥だなんだで確実にもめます。なら、奪い取って、誰が1番かわからせるべきと思いました」と、堂々と言い放つ。
側室の息子達もどうかと思うが、
『もしや3男もヤバいやつか‼』と、好隼は内心動揺した。
いや、それ以上に後継ぎ問題で揉めれば、
「いや、放っておいても家督はお前にいくのだぞ‼お家騒動などしたら、お取り潰しに‼」と叫ぶも、
「もう幕府はありませよ、父上」と、彼は意に介さない。
「私は私の平穏な生活のために、あなたに牙をむきます。今日は説明だけですが、いずれ江戸屋敷の方の家臣をまとめ、ここに攻め入る予定です。」
ニコニコと、場にそぐわない笑顔のままで言った息子は、踵を返し立ち去ろうとした。
「では。お伝えいたしましたので、今日はこれにて失礼を。」
何のつもりかわからない。
しかも一応息子である。
けれど、今完全に敵となろうとする存在を、黙って返すほど、好隼は平和ボケもしていなかった。
「くそう‼後悔するなよ、息子よ‼」
叫んで好隼は片手をあげる。
「出会え‼息子、宗近乱心‼出会え‼」
合図とともに、刀を抜いた男達が5人、走り出てきた。
多勢に無勢の筈だった。
しかし、
「ぐえっ‼」
「うぐぅ‼」
警護の家臣5名は、一瞬で昏倒し、または喉を押さえて吐きまくる。
風のように動いたのは頭巾の少年。
「ああ、もう。危ないな、宗近。あいつら並みの手練れがいたら、いくら私でも危ないぞ」と、存外高い声がする。
「新選組ともめて帰ってこれた人なら余裕ですよ。」
「ああ、もう‼暑苦しい‼」
面倒そうに頭巾を外した。
赤い髪、緑の瞳の、外国人の少女だった。
彼女が5人の喉を突いた。
みねうちだから死んではいないが……
驚き過ぎて声も出ない。
家臣達も呆然とするのみだった。
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