第131話 我が儘小藩の跡継ぎは、全部欲しい

 さてさて、時は少し遡る。

 『結婚に夢は持ってはいない』と言った。

 キッパリ振られた宗近は、平良藩の江戸屋敷で考える。

 一体何で自分は振られた?

 事前にスウトウに聞いていたから、決して彼女を日陰者などしないよう、意地でも正妻にし、そしてそれさえ出来れば結婚してくれると思っていたのだ。

 だから丸2日かけて、父である藩主、平良多郎好隼を説得した。

 しかし、結果は惨敗。

 何故だ⁉️

 ただ、今回言葉を尽くし、はっきりわかったこともある。

 彼女が引っ掛かっているのは、やはり『家』だ。

 宗近は父の説得に2日を要しているが、つまり、2日かけないと折れさせることさえ出来やしない。本気の納得など、望むべくも無いのだ。

 父は、最後まで隣国の姫を正妻に、スイリョウのことは、

 「側室でいいんじゃないか?」と主張していた。

 こうした考えは下に伝わる。

 藩主の意を汲み、誰かがスイリョウを亡きものとしようとすることは、残念ながらあり得るのだ。

 なるほど、

 『起きていても寝ていても安心出来ないのは嫌だ』と、スイリョウは言う。

 それは確かにその通りと思った。

 なら、1番簡単な一手は……

 跡継ぎなど辞めるのが1番だった。

 宗近は確かに正妻の最後の男児だか、実際父には側室もいる。

 そちらまで含めれば、自分以外の跡継ぎだって間違いなくいるだろう。

 しかし……

 『投げ出したっていいじゃないか?』と思うと、急に心が落ち着かなくなる。

 あんなにもやりたくなかった。藩に戻りたくない一心で、清国一行の案内役になった。

 なのに、いざとなると引っ掛かるのは……

 そこに住んでいる領民のことだった。

 宗近は兄2人が亡くならなければ、数にはいらない、いらない3男。

 だから、金を工面し出来る限りの教育を施し、江戸屋敷で守ってくれた母親には感謝し、親子の情愛もあるのだが、父親は真面目にどうでもいい。

 だから、跡継ぎを辞退することで彼を失望させるのは構わないが、清国大使館にいたお陰で早めに幕府の行く末をつかみ、条件が悪くなる前に金策に走れた。金を有利なレートで『金』に変え、一財産築いたそれを、出来る限り領民に還元したい。

 今考えれば、領民にとって3男だろうと藩主の子は藩主の子で、全て当たり前なのだが……

 江戸屋敷に移動する前の幼い日、いらない子として放っておかれた宗近は、毎日城下で遊んでいた。

 彼の心を守ってくれたのは、彼らだ。

 「若‼️今日はどちらに⁉️」

 「若様。」

 当たり前に話しかけてくれた、彼らに借りを返したい。

 なら、跡継ぎは辞められない。

 藩主の息子としては計算外、不幸な生い立ちと言える宗近は、一般的には餓えたこともない、今日の寝床に困ったことも、寒さに震えたこともない、いわゆるお坊っちゃんだ。

 こう言う人は、『取捨選択』しない。

 欲しいものは全て欲しい‼️

 スイリョウを取れば藩主を、藩主を取ればスイリョウを諦めるなど、あり得ないのだ。

 どちらも取れる方法を考えて……

 彼は中野を呼ぶ。

 「爺。」

 「は。」

 「また家に帰るぞ。」

 「はい。」

 「……やらかしてくる。」

 両手に宝を手に入れるため。

 「どうぞ、思いのままに。付いて行きます」と、中野は言った。

 「あと、清国大使館に連絡をとってくれ。」

 

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