第130話 若干ストーカー気質?

 「くそうっ‼️親父、マジ逃がす気ないな‼️」

 1人叫ぶスイリョウ。

 大使館の自室である。

 時が経ち、だいぶ腹部が膨らんで、妊婦らしい体型になっていた。

 胎教に悪そうだが、とにかくイライラが抑えきれない。

 妊娠に気付いた頃から、彼女の望みは変わらない。

 子供は生みたい。母になりたい。

 しかし、結婚はしたくない。

 特に、腹の子の生物学的父親はノーサンキューだ。いろいろと危な過ぎる。

 そして、生きづらいだけだから、勿論清には帰らない。

 日本で‼️母子で生きていくのだ。

 しかし、1回目の結婚での自らのやらかしから、徹底放任だった父親が、今回は我慢出来なかった。

 いや、必ず苦労することがわかって、放っておけたら親じゃない。

 今更芽生えた父性だけに、つっかえ棒が外れれば暴走するのだ。

 大使は清国大使館として、護衛を雇った。

 けっこうな人数を雇い、交代制で24時間(この時点では1日は12刻)切れ目なく守る。

 抜け出そうとしても、今の身重なスイリョウでは確実に捕まる。

 そして、江戸幕府から新政府に引き継がれた、国の威信をかけて勝手に守る護衛ではなく、正式な存在であることが、

 「くそぅっ……」

 更にスイリョウを苦しめる。

 彼女は不測の事態に備え、義理の弟妹たるジュンケンとゲツレイに、事前に助力を頼んでいた。

 彼らなら、護衛の4、5人、問題ない。

 けれど、もし公的な護衛を叩きのめせば?

 彼らが罪に問われてしまう。

 そんなことは絶対出来ない。

 軽はずみなことが出来なくなると、娘の気性をわかった上で、大使はわざとそうしたのだ。

 「これじゃあ、ラストにかけるしかなくなるじゃない。」

 次の駐日大使が来て、引き継ぎに忙殺される最後の週だ。

 まったく頭の痛い話で、頭痛の種と言えば、この頃は3日と空けずに奴が来る。

 玄関先から声がした。

 「スイリョウさーん‼️結婚しましょう‼️」


 「懲りないねぇ、宗近も」と、ジュンケン。

 清国大使館の玄関先に、いわゆるヤンキー座りで話している。

 「いやいや、懲りるとかあり得ませんよ。」

 訪問者は勿論藩主の跡継ぎで、彼女に会っても貰えないのに、自信満々で胸を張る。

 「でもさぁ、やり方考えた方がいいんじゃない?スイリョウ姉、出てきてもくれないじゃんか。」

 『いやいや、君も言えるほどじゃない』と、この場にゲツレイがいれば突っ込んだろうが……

 安請け合いとも思える軽さで、

 「大丈夫ですよ」と、宗近が受け合った。

 「近い内に最終兵器を投入です。これで絶対バッチリですよ。」

 なかなか馬鹿と言うか、めげない宗近が、

 『最近好きになってきたな』と思うジュンケンだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る