第9章 眠れる竜の日本紀行

第129話 三寒四温の日々

 時は巡り、気候は三寒四温となる。

 正に春は間近であった。

 日本は後に、『戊辰戦争』と呼ばれる内乱に突入、新政府手動の近代化と同時に、旧幕府軍と戦闘すると言う、非常に落ち着かない状態であった。

 そしてついに、初代駐日大使一行の帰国の日程が決まる。

 1ヶ月後だ。

 それより1週間前に、2代目駐日大使一行が横浜港に到着。

 引き継ぎを行い、彼らを乗せてきた船は点検整備、荷物の搬入……

 初代一行を乗せて戻る予定だ。

 帰国が現実味を帯びてきていた。


 その日ゲツレイは、仕事である町の散策を午後に回し、部屋の整理をしていた。

 1ヶ月あると言うより、1ヶ月しかないのだ。

 着の身着のまま、成り行き任せで日本に来た。物にもこだわらない性格だから、何もないかと思っていたが……

 服が……スゴい……

 スイリョウだ。

 姉の思いやりと暇潰しの集大成。

 帰るにしても、残るにしても、これは捨てられない。

 実は清国大使館は、移転することが決まっている。

 新政府が、少し離れた場所に代わりの近代建築……いかにもな洋風邸宅を用意した。

 今の旅館を流用した建物は引き換えにすることになる。

 きっと壊してしまうのだろう。

 近代化を急ぐあまり、古き善き物を否定する。

 勿体ないな、と少し思った。

 季節柄着ない服……冬の外套とか、逆に真夏用の薄手の服等をひとまとめにした。

 どうなるのにしろ、何時でも動けるようにしよう。

 そう言えば、父を失い天涯孤独となったさくだが……

 あのジュンケンの、馬鹿プロポーズを受け入れた。

 『あれでいいのか?』とは思うし、だいたいまだ付き合ってすらいないし。

 しかし、もう十分共に過ごし、お互いを知り、理解を深めたと言うことだろう。

 今は清国大使館に身を寄せている。

 時々、

 「ゲツレイ‼️清国語教えて‼️」と攻めてくる。

 「私が話すのは方言だ。上海語だから」と断るも、

 「いいから‼️」と押し切られる。

 さくは、亡くした兄と、病魔に侵された父に縛られていた。

 その縛りを外してみると……

 真っ直ぐで元気。芯が強いことも少年に似ている。

 つまるところ『似た者同士』と言うことか。

 一方帰国しないことを決めた、スウトウは暇をみては手紙をしたためている。

 現代と違い、行こうと思えばすぐ外国に行けるなどあり得ない。

 1度帰って説明して……などやっていたら、いつ戻れるかわからないから、手紙のみで伝えることとする。

 家族への変わらぬ想い、3男に全てを任せること、いつか必ず会いたいこと。

 書きながら、何度も別れを繰り返す。

 大切なことは変わらない。

 しかし、今初めて自らの足で歩こうとする、自分を彼らは祝福してくれると思う。

 いつか会いたい。

 皆それぞれに、来るべき日に備え動き出していた。

 ただ、ゲツレイは肝心な最後の部分だけ、決めていない。

 帰国か、残留か。

 あと1人が決まらない。

 スイリョウだけが決めていないから……

 


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