第126話 今ひとたびは、ふたたび、みたび、やがて無限に沸きいずる

 子供の頃から、武士になりたかった。

 強さを身につけ、刀1本でのしあがる。

 農村の小倅が、何かに変わりたいと願ったのだ。

 毎日飽きもせず体をいじめ、土方は鍛練を重ねていった。

 剣はいい。

 刀1本あれば誰とでも対等に戦える。

 敵は全てが清廉潔白とは言えない。

 大人数で襲いかかる者もいる。不意打ちに出る者もいる。袖の下を渡そうとする者もいる。

 しかし、そう言う薄汚い部分込みで、相手方の『力』と思った。

 多勢を倒し、不意打ちに対応しやり返す。袖の下を渡そうとする奴は、突き返した上で叩きのめした。

 いつか目的と手段が入れ替わる。

 何かになる為に強くなろうとしたのに、『強くなる』ことこそが目的となった。

 結果、周囲の状況が付いてくる。

 新撰組を作り、ついには『幕臣』となった。

 『俺は武士だ‼️』と、土方は思う。

 武士である以上、『もののふ』ならば、簡単にその考えは変えない。

 幕府は滅んだ。

 けれど、自分達は幕臣だ。

 だから、数ヵ月ももつだろうか?

 おそらく『武士』ではない『兵隊』に、鉄砲で撃たれ、大砲で吹き飛ばされて終わるのだ。

 その最後の戦いの前に、土方の為に昔馴染みが用意した餌は……

 極上の1品だった。


 「やり過ぎるなと言ったはずだ。」

 完全に背後をとられ、あまつさえ刃物を首に押し付けられて、

 『まったくいつの間に?』と、沖田は内心舌を巻く。

 沖田自身も、いくら病を得たとはいえ達人なのだ。

 来るだろうと警戒もしていた。

 なのにこの体たらく。

 大き過ぎる身長差から、いくら背後をとられたからと、抜け出せるような気がするが……

 絶対無理だと感覚が教える。

 逃れようとした瞬間、ゲツレイの小刀は沖田を殺す、迷いなく。

 「あぁ。」

 沖田はため息をつき、天を仰いだ。

 人質を取った時点で、彼の姉を名乗る少女の怒りを買うことはわかっていた。

 わかっていたが、目的のために……

 兄とさえ慕う、土方の武士としての最後の戦いのため、それを実現するためならば‼️

 今思いは形となって、カンカン‼️と金属音が響いている。

 せめて、この戦いだけ見守りたいと思ったが、キリがない話だった。

 言えるのなら、叶うのなら、沖田はこの戦いを見守りたい。見守れたのなら、明日京に向かうと言う、新撰組に同行したい。同行出来るなら、仲間と共に戦いたくて……

 欲望は果てしがないから、

 「覚悟の上だよ」と、簡潔に伝えた。

 「そうか。」

 ゲツレイの小刀が振り上げられる。

 月明かりに煌めく。

 何故だろう?

 さらわれ、巻き込まれたはずの、さくが叫んでいる。

 「ダメ‼️ゲツレイ‼️」

 と。

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