第125話 執着の果て

 『ゴウッ‼️』と風切り音がした。

 土方の剣は力任せ、全力で大剣を振るう。

 なのにしっかり残心も残り、洗練された『力任せ』と言う、矛盾した剣を作り出した。

 触れれば切れると言うより、叩き潰されそうだった。

 ジュンケンの持つ小刀など、10中8、9、折れる。

 しかし、

 「ぐう‼️」と、強く確実に、少年はそれを受け止めた。

 『カーン‼️』と、金属音が響く。

 「やるな、小僧。」

 「鍛冶屋のおっちゃん、様様だな‼️」

 こうして彼らは邂逅す。


 「ああ、始まった」と満足げな沖田が、

 「もう立ち上がっていいですよ」と促す。

 言われるままに身を起こしたさくは、体に付いた土を払った。

 2人がいるのは、土方とジュンケンが戦っている山門前から続く、階段の上。

 決闘を見守る特等席で、全体が見渡せる上、戦い始めれば視線をやられ見つかることも無いだろう。

 端から戦わすことだけが目的だった、沖田は人質を拘束すらしていなかった。

 キラキラした目で戦いを見つめる青年を、

 『変わった人だ』と、さくはため息をつく。

 一体何をしたいのか?

 いや、『戦わせること』そのものが、彼にとっては重要なのだろうが……

 農民であるさくに、戦いの意味などわからない。

 武器を振るうことには、理不尽さがつきまとう。

 カンカン‼️と響く金属音が、『なぶり殺された』としか思えなかった、傷だらけだった兄を思い出す。

 うんざりする。

 ただ、改めて見ると……

 『ジュンケンって、本当に強かったんだ』と舌を巻く。

 知っていたはずだ。

 出会いそのものが、侍に『切り捨て』られかけたところを助けられた。

 けれど、それをすっかり忘れ去れるほどには……

 少年はいつも優しかった。

 農作業に、大工仕事に。

 いつも自然に手を貸してくれる。

 あくまで自然体に傍にいてくれたから、荒々しい一面など記憶の彼方だったのだ。

 さくは、武士は嫌いだ。

 理不尽の塊。暴力の化身。

 けれど、同じ『戦う人』に分類出来たらしい、ジュンケンのことは?

 嫌いじゃない。

 怖くない。

 ある種の特別待遇である。

 いつの間にか精神的に頼っていた少年の戦いを、祈るように見つめていた。

 ただ、その実力を見謝っていた、もう1人の存在に不意に気付く。

 「おい。」

 高いのに、底冷えする声。

 「⁉️」

 ハッとして振り返る。

 いつの間にそこにいたのか?

 沖田の背後にゲツレイがいる。

 彼女が抜いた小刀が、月明かりに光った。




 注)土方歳三(←注釈では正しく表記させて下  さい)の剣法は、あくまで私のイメージです。




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