第123話 風雲急を告げる
「君の竜が騒いでいる。何が起こったんだ、一体?」
昼頃戻ったジュンケンに、彼女も昼ご飯のために大使館に戻っていたのだろう、ゲツレイが訊ねる。
人の状態を映像で見る。
自分と同じ能力を持った、姉を誤魔化せるとは思えなかった。
ジュンケンの背後に見える子竜は、慌てふためきウロウロし、時に怒りの表情を浮かべる。
非常事態は明らかだった。
「さくがさらわれた。」
不機嫌に答えるしかなく、
「沖田か‼」
「ああ。」
「そうか。」
その犯人の名を聞いた時、慣れているはずのジュンケンすらたじろぐ程の、怒りのオーラが立ち上る。
スイリョウの過去を聞いた時、清に戻って犯人全て皆殺しにすると言った、あれ以来のマジ切れだった。
一方さらわれたさくの方は、
「ジュンケン‼ジュンケン‼」
後頭部を殴られ地面に倒れ、ピクリとも動かない少年を気遣う叫びに、
「うるせえ、黙れ‼」と、強引に腕を持って立ち上がらされる。
沖田が連れてきた新手は2人。江戸の町で見たことのある、特徴的な羽織を着ていた。
2人共若く、あまりいい感じを受けない。
チンピラ、と言っても良さそうだった。
「どうします?沖田さん。結構いい女だし、やっちゃいます?」と、起こした方でない男が言った途端、沖田総士が豹変する。
「は?僕は貴様らにそんなことを頼んだか?」
言い終わる前に抜刀していた。
実際さくは目で追えなかったが、一瞬何かが光った後、
「うぎゃあぁぁっ‼」
叫び声をあげた、男の鼻先が裂けた。血が飛び散る。
沖田は認めることの出来ない不出来な部下を、その鼻先だけを1センチほど切って見せた。
「いや、沖田さん‼俺達は別に‼」
言い訳しようとしたもう1人は、次の瞬間、腕が肘からなくなった。
「うわあっ‼」
「痛ぇ‼痛ぇよぉ‼」
転がり回る2人を見下ろす冷たい視線は、これまでの好青年然とした仮面をかなぐり捨てた、血に飢えた武士そのものだ。
「お前は彼の腕を蹴った。貴様の命などどうでもいい。しかし、彼に怪我をされては困るのだ。
僕は君に何を頼んだ?」
気に食わねば切られると思うから、男2人は謝るしか出来ない。
「ひいぃぃぃ。すいません、すいません。」
「調子に乗りました。すいません。」
沖田は、鼻先を切った男への罰は甘かったと言わんばかりに、彼の太ももを刺し貫く。
そのまま刀を捩じるから、絶え間なく絶叫が響いた。
「貴様らとの約束は反故だ。貴様らは、戦争には行きたくない、逃がしてくれと言い、僕も頼んだ任務をこなすならと言った。しかし、こんな簡単な任務もこなせない、貴様らを庇いはしない。組からも追っ手をかけるから、あとは勝手に逃げればいい。」
無能2人を突き放した後、
「では、さくさん。夜まで僕とお付き合いを」と、一瞬で元通りの人好きのする笑顔で言われ……
逆らえる人間などどこにもいないのだ。
数日後、新撰組隊士が2名切り刻まれて発見されるが……
これは蛇足だ。
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