第117話 逆算すると、後10日くらいで開戦です

 少年を見つけて以来、実は毎日さくの家を見張っていた沖田である。

 早く接触しないと間に合わない。

 時代がどんどん移っていく。

 『王政復古の大号令』があった時期、沖田は臥せっていた。

 息が苦しい。

 血痰が出る。

 喉が切れたのか、最終的には血も吐いた。

 早く、早く‼️

 土方さんへの最後の贈り物だ。

 早く、彼に……

 結局3日動けずに、重ダルい体を引きずるように、例の家を訪れた日、

 「あっ⁉️」

 ついに、出入りする少年を見つけた。

 帰って来たのだ。

 今すぐにでも接触しようと動き出した瞬間、

 「おい、何をしている?」

 女性だから高いはずが、底冷えするような声色だ。

 家から少し離れた茂みにいた、沖田の後ろに死神がいる。

 迷っていたら殺られるから、彼は刀を抜いて、振り向き様に横に払う。

 「はは、久し振りだね、お姉さん。」

 日常の続きのようなセリフ。

 完全な不意討ちだったはずが、沖田にとっての死神……ゲツレイには通じない。

 少女は刀を掻い潜り、一瞬で距離をつめる。

 いつもの小刀を抜き、沖田の喉元に突き付け……いや、いつでも殺せる意思を込めて、わずかに切っ先で刺して見せた。

 「‼️」

 痛みと共に血が流れる。

 さしもの沖田も動きを止める。

 ……

 止めざるを得ない。

 「一つだけ約束しろ。」

 底冷えする声は続く。

 「……?」

 「あの家の父親はもって明日、下手をすれば今日死ぬだろう。

 そこまで待て。」

 「……」

 「貴様の事情は想像がつく。時間が無いのだろう?」

 そこで初めて、ゲツレイの声に感情が戻った。

 物には拘らない彼女だが、人には拘る。依存に近い感情を持つ。

 認めたくはない。

 しかし、ほんの少しだけ、沖田の暴走するような想いもわかるのだ。

 だからって、ゲツレイにとって大切な人の1人である、ジュンケンに理不尽な刃が迫るのは困る。

 だからこれは、ギリギリの妥協だ。

 「弟とさくに、別れの時間をよこせ。ちゃんと人として別れさせろ。

 父親を見送った後なら、やり過ぎなければ目をつぶろう。」

 「……」

 沖田はしばらく考えた後、

 「いいよ」と、頷いた。

 「もうすぐ新政府側との戦争が始まる。新撰組も移動するし、まったく余裕はないけど、でも……たぶん間に合うし。」

 「感謝する。」

 いやいや、まったく『感謝』など必要無いのに、そう言ってゲツレイは愛刀を鞘に収めた。

 「でも、いいの、お姉さん?」

 「何が?」

 「土方さんは強いよ。手加減も出来ない。弟さん、死んじゃうかもよ?」

 「……問題ない。うちのも強い。」

 迷いのないセリフに、この姉弟の絶対の信頼関係がわかる。

 少しだけ笑う沖田だった。

 「まあ、やり口がえげつな過ぎれば、私が出る。君こそ命の心配をしろ。」

 「怖っ‼️怖いな、お姉さん。」

 「当たり前だ。」

 

 

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