第115話 子供達の内緒話

 翌朝早く、いつも通りだ、朝食用の爆弾お握りと、昼食用の大量の丸むすびを持たされて、さくの家へと歩く少年少女だ。

 「何?食わねえの、お前?」

 指についた米をなめながら訊くジュンケンに、見ているだけで胸焼けしそうなゲツレイである。

 ジュンケン用の朝食は、ありえない大きさをしている。

 子供の頭大で、現代風に例えるならハンドボール大。

 大量のおかずも詰め込んだ、米3合(通常のご飯茶碗6杯分)だ。

 それをペロリと食べ切る姿にドン引きしつつ、

 「私はこんなに食べられないからな。少し減らして貰おうと思ったんだ」と、手つかずの朝食を見せる。

 ゲツレイ用は少しだけ小さめの米1合。

 とは言え、平均的ご飯茶碗2杯分だし、どう考えても多かった。

 普段なら、3分の2は渡すところ、昨夜『大きくなった』と言われたことを思い出す。

 半分自分に残し、半分をジュンケンに差し出すと、

 「おお‼ありがと‼」と迷いなく受け取り、かじり出す。

 彼はまだまだ余裕らしい。

 3合飯を食らっておいて?

 ともあれ、歩きながら、お握り片手の緊張感皆無の会話となったが、ゲツレイは留守中の一件を伝えるのだ。

 「君、おかしな奴に狙われてるぞ。」


 「おかしな奴?」

 身に覚えのないジュンケンが腑に落ちない風に顔を歪める。

 沖田に会ったゲツレイには分かっている。

 あれは現代で言えばストーカーのたぐいだ。勝手に盛り上がり勝手に結論を出し、そして他人を巻き込む。

 巻き込まれる側にはいい迷惑だが、真面目なだけに始末に悪かった。

 「若い、幕府側の武士だ。沖田と名乗った。」

 「知らないよ。」

 「だろうな。」

 「だろうって?」

 「ああ……何というべきかわからん。執着してるんだ、彼は。」

 そこでしばし考えこみ、今1度言葉を紡ぐ。

 話すことは得意ではない。

 けれど、弟のため、ただ必死で。

 「君が、武士を叩きのめすところを見たらしい。接点はそれだけだ。」

 「?」

 「彼は、先輩と君を戦わせたい。幕府派の彼らは、近く戦乱に巻き込まれる。鉄砲や大砲で武装した、武士とも言えない何かに倒されて終わる。

 その前に、最後の武士らしい一戦を望み、君がその相手に選ばれた。

 こんな感じか?」

 「こんな感じって?」

 「……それしか言いようがないんだ。」

 「勝手な話だ……ああ、だから執着?」

 「ああ。沖田は君に執着して、さくの家付近まで探しに来た。あの後も何度か来ている。」

 遠巻きに覗いても、濃厚な気配でわかる。

 初対面の後、都合4回青年を感じ、ゲツレイは内心舌打ちした。

 「君があそこに戻ったとなれば、近々接近してくるだろう。知らないよりはましだから教えた。十分気をつけろ。」

 ぶっきらぼうな言い方だが、姉が心配してくれるのは分かる。

 「ああ。」

 面倒事の気配に、弟は頭をかくのだ。

 「あと、もう1つ。」

 「まだあるのかよ‼」

 「さくの父上、表面上は元気だけれど。」

 「?」

 「もう持たないよ。」

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