第114話 大人達の内緒話

 「とりあえず‼️

 親父が帰るまでだから、ゆきを貸しなさい、カク君‼️」

 まだ宗近の馬鹿発言が響いているのか、スイリョウが強権を発動する。

 「え?……あの?」

 夕食を済ませ、それぞれの部屋に向かっていた。

 可愛い嫁を拉致されそうで、戸惑うスウトウだったが、

 「大丈夫ですよ。女同士の話もありますから」と他ならぬ本人に言われ、諦める。

 「じゃ、このままスイリョウさんの部屋に行きます。

 あ、ゲツレイちゃん、どうする?」

 女子会と言うことで、急に話を振られたゲツレイは、ブンブンと首を振って拒否し、急に理由なく参加しない罪悪感から、

 「私は無理だから。その……相談にのれない。分からないから……」と、随分まともに説明する。

 一瞬虚をつかれてポカーンとした一同が、顔を見合せ笑った。

 「あはは。くそ真面目だなぁ、ゲツレイは。」

 笑いながらジュンケンにポンポンと頭を撫でられ、

 『背が伸びたせいなのか?』と思う。

 何故だろう?

 この頃1番年下扱いされている気がするゲツレイだった。


 「まったく、あの馬鹿。」

 とか言いながら、

 『随分嬉しそうな顔をして』と、思うゆき。

 口とは裏腹、スイリョウは耐えきれず笑っている。

 本当に……

 スイリョウさんは平良様が好きなんだと、今更ながら確信した。

 つられて浮かぶ微笑みに、スイリョウも気がついたのだろう。

 少しだけテレたように、

 「ま、好きじゃなくっちゃ、こう言う結果にはならないか?」と、腹をなでた。

 今2人は、スイリョウの部屋で話している。

 「順調なんですか?」

 「たぶん。ここまで育ったことは無いし、よくわからない……」

 ただ、昨夜は胎動のようなものを感じたそうだ。

 人は、早ければ4ヶ月程度から胎動がわかる。

 スイリョウの体型はまだまだ普段と大差ないし、つまり、4、5ヶ月と言うところだろう。

 これまで2回流している。

 スイリョウは心から母になりたいと望み、ただ、『母になる』のなら⁉️

 宗近だけは、ノーサンキューとなるのだ。

 恋愛だけなら、当人同士の問題だ。

 しかし、結婚や子を生むとなると……

 必ず『家』が絡む。

 その家が問題で、

 「小さな藩でも殿様になる予定のあいつの、その連れ合いが外国人のあたしじゃ危険過ぎる。下手したら子供だけ盗られて、捨てられかねない。」

 スイリョウも、スウトウが予測した通りに言った。

 「そこの辺りも含めて、旦那様が噛んで含めるように諭していたので、たぶん、わかってやっていますよ、平良様。」

 「あはは‼️さすがカク君‼️読みが深い‼️」

 「何かしらの答えを持ってきていると思います。」

 「そっか。でも……」

 スイリョウ曰く、こうした場合は『個人』の意思など関係がないそうだ。

 前の結婚では全員がクズだったわけだが、『集団』と言うものは侮れない。『集団』だからこそ歯止めが効かなくなる。『集団』だからこそ、『相手のためを思って』を隠れ蓑に、『集団』としての意思を通そうとする。

 「危な過ぎるよ。」

 全否定しながら、好きな男への想いにも揺れる。寂しそうにも見える横顔に、伝えたいことがある。

 宗近は恐らく、必死で道を切り開こうとしているだろうが……

 無責任な擁護は出来ない、難しい状況だからこそ‼️

 「あの、ですね。スイリョウさん。」

 「?」

 「この先あなたがどんな選択をしようとも、私達はあなたの味方ですからね。」

 少しだけ、珍しく真顔で言って、ゆきはまたいつも通りの柔らかい笑顔に戻った。

 「ゆき?」

 「まあ、味方と言っても旦那様と私は、応援するくらいしか出来ませんが。

 でもスイリョウさんには、あなたに仇なす者があれば全て排除してくれそうな、弟さんと妹さんがいますからね。」

 「……」

 「絶対大丈夫ですから。」

 頭の中に、前の家族の話をした時の、マジギレしたゲツレイの姿が浮かぶ。

 そうだった。

 何かあればジュンケンだって怒ってくれる。

 ゆきの温かな気持ちに触れたスイリョウは、馬鹿だけれど大好きな小藩の跡継ぎ殿を思う。

 あの考え無しのトラブルメイカー、早めに釘をさしておかないと、と。

 


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