第8章 黒き竜と、守りの刀
第112話 ただいま‼
里帰り組が江戸に戻って来ると、『王制復古の大号令』が発されていた。
往復2日で戻るはずの宗近は結果5日かかって、宿場に長逗留となる。
藩で何を話し合ったのか、どういう結果が出たのか訊く余地もなく、5日目の宵の口に戻った彼は強行軍に疲れ切っていて、
「お待たせいたしました、皆さん。明日早いうちに立って江戸に戻りましょう」と、挨拶もそこそこに寝てしまった。
そのままバタバタと帰路につき、復路は5日で走破した。
行きは7日掛かったが、日光に寄り道した(多少遠回りとなる)ことを考慮しても丸1日分は短縮している。
籠担ぎ、馬に感謝な、都合17日間の旅となった。
『王政復古の大号令』とは天皇の宣言という形で発布されており、簡単に言えば、
『これまでの幕府政治は終了する』
『これからは従来通り天皇(王)中心の国家運営とする』
『天皇のもとに新しい政府が政治を行う』と言う内容だ。
冬の最中の、新暦で言えば年が明けてすぐ、旧暦なら年末の声が聞こえる時期だった。
『王政復古』について、簡単な書付のようなものが置かれていた。
留守中の職員に向け大使が用意したらしい。
江戸に戻ったのは夕餉前の時間で、旅の汚れを落とすため風呂に入ったジュンケンは、髪をふきながら1階の広間でそれを見ている。
「これ、将軍不味いんじゃないか?」
江戸城で会った、青年を思い出す。
知らぬ仲でないし、またも揺らぐ彼の足元に思いをはせると、
「大丈夫じゃないか」と、答えたのはゲツレイだ。
少女は本質的に生真面目で、ジュンケン達が出かけている間、午前中はさくの家、昼に戻ってスイリョウの様子を確認し食事をとり、午後から町に出て諜報活動、夕餉には戻ってくるを繰り返した。
彼女は今、町から帰ってきたところなのだ。
「大丈夫って?」
「将軍は、『王政復古の大号令』の前に、おかしな奴らの旗印になるのは得策ではないと、田舎に急遽戻られたと聞いた。」
「ああ、なるほど。」
徳川敬喜の後ろにいた、白き竜を思い出す。
彼は公正で、そして自由に飛べる男だ。
大丈夫なんだろうと納得する。
「で?君は明日からはさくの家に行くのか?」
急に話を変えるゲツレイ。
「ああ、そのつもりだけど。」
「そうか。」
「ああ。」
「なら、初日だけ私も行こう。伝えたいこともあるし。」
『伝えたいことなら今言えばいいじゃないか?』という疑問は、続く展開が衝撃過ぎて、一気に脳裏から霧散した。
「こんにちは‼」
玄関から間延びした、ジュンケンにとってはここ半月ほど旅を共にした、小藩の跡継ぎ殿の声がする。
「げっ‼」と、ゲツレイが面倒臭そうな顔を見せるが、それもすぐに続けられなくなった。
出て来るのが待ちきれないのか大きな声で、
「スイリョウさーん‼結婚しましょう‼」と叫ぶ。
「は?」
「え?」
小学生男子か‼と言う突っ込みは、現代人にしか許されないが……
身も蓋もなさすぎる登場に、さすがのゲツレイも目を見開き、ジュンケンも頭を抱えるのだ。
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