第104話 のろけは酒の肴にもならない

 「で‼️聞いて下さいよ、皆さーん‼️」

 いつの間にか升酒をあおっている宗近。

 くだまきが始まった。

 宴席は宿の広間が貸し切られ、最初の『乾杯』用に全員にぐい飲みで熱燗が配られていたが……

 ある意味勤務中である中野は、それだけ飲んで手を出さない。

 スウトウは弱いので、ぐい飲みをチビチビ飲んで、ほとんど減らない。

 ゆきとジュンケンは手も付けず。

 宗近だけが酔っていく。

 『まったく仕方のない野郎だな』と、ジュンケンは相手にしないことにした。

 目の前の料理に集中する。

 ぼたん鍋(猪鍋)と、焼き物も肉だ。

 うまい‼️

 飯が進む‼️

 ガツガツ平らげていくと、

 「実はですね。私、今、スイリョウさんとお付き合いしてまして‼️」

 ペロッと宣言する宗近に、一瞬口の中の物を吹き出しかけて、耐えた。

 『おいおい、いいのかよ⁉️』と、思う。

 宗近は次期藩主。

 スイリョウは大使の娘。

 お互いの立場もあり、黙っているのかと思っていた。

 まあ、スイリョウには、更に事情がありのだが。

 周囲の様子を盗み見ると、

 「えっ‼️そうだったんですか⁉️」と、本気で驚いているのはスウトウのみ。

 ゆきは……

 平然と、と言うよりいつもニコニコして感情にムラがない、まさに普段通りに箸を動かしている。

 スイリョウは、真面目なゆきに真実を打ち明けたがらなかったが……

 女の勘なのか、彼女は多分気付いていた。

 そして中野は、一瞬だが視線をうろつかせ動揺する。

 つまり中野も知っていた。

 『なんだろうな?』と、ジュンケンはため息をつき、それを隠すように飯を、肉を、頬張るのだ。

 鈍いスウトウはともかくとして。

 ゆきが、中野が、どこまで知っているのか、知らない。

 「これが意外なほど可愛くて」と、酔ってのろける宗近は、けれどスイリョウが妊娠していることを知らない。

 スイリョウ自身が教えないし、多分どんなに彼が愛していても、スイリョウ自身も愛していても、最後の最後で頼らない。

 そう言う選択をさせることは、まだ本人さえ知らぬこととは言え、男として、大人として、一体どんな気分だろう?

 ……

 モヤモヤする。

 ただ、男だからか子供だからか、ジュンケンは姉の意思を守ろうとした。

 宗近に、

 『しっかりしろ‼️』と言ってやりたい。

 『子供出来たぞ‼️ちゃんとしやがれ‼️』、と。

 それでも何も言わずに耐えた少年らの前で、

 「でも、この頃会ってくれなくて。何でなんでしょうねぇ?」と、ついには愚痴をこぼし出す宗近。

 ジュンケンは流したが、

 「……」

 一瞬、中野が拳を強く握り、従者だから、我慢した。

 我慢出来なかったのは、女同士だからなのか?

 伏兵のゆきだった。

 彼女はスッと立ち上がり、宗近の前に座る。

 「?」

 「平良様。私はあなたに助けられた身です。遊郭にいた時はそこまで不幸に思いませんでしたが、外に出た今は分かります。

 私は平良様のお陰で1番好きな方の隣にいられます。優しい人達に囲まれて暮らせています。

 本当なら、こんなことを言える立場にないのですが……」

 「???」

 「私はスイリョウさんも好きなんですよ。だから、言います。

 もっと大切にして下さい。もっとしっかりして下さい。」

 「え?」

 「スイリョウさん、おそらく妊娠されてます。」

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