第102話 見ざる聞かざる言わざる
「皆さん‼こちらがあの有名な(日光)東照宮です‼」
いやいや、テンション高いな、宗近。
3日目、せっかくここまで来たのだからと、午前中は東照宮に行くことになった。
江戸幕府の初代将軍、徳川家康(東照大権現)を祀る神社は日光以外にも久能山などあるが、ここが総本宮となる。
テンションアゲアゲの宗近に比べ、
「知っていますよ」と、苦笑いで返すのがスウトウ。
「知ってる?」
「ああ、元々僕は国でも勉強ばかりだった学生ですし、調べられる範囲では調べてあります。」
「ちなみに俺も知ってるぞ。祀られてるのは江戸幕府の祖だろ?」は、ジュンケン。
普段の行動を見ていると信じられないが、彼もスペックはかなり高い。
「なんだぁ」と、子供みたいにふて腐って見せる次期藩主。
「でもまあ、調べて想像しているのと、実際見てみるのでは感想も変わります。大きく、立派な建物ですね」と、スウトウがフォローを入れた。
やがて一行が見つけたのが、あの有名な『見ざる聞かざる言わざる』。
レリーフのその意味を、
「確か、子供の頃は悪いものを見ず、聞かず、そして言わないという意味だったような……」
宗近は解説したが、清国出身のスウトウとジュンケンからすれば、
「論語の、
『礼節を欠くようなことは見てはならない、聞いてはならない、言ってはならない、行ってはならない』じゃないのかな?」となる。
いろいろな解釈をされるこのレリーフは、現代社会では、
『自分に都合の悪いことは見てはいけない、聞いてはいけない、言ってはいけない』と、黙秘権みたいな解釈までされているものだった。
宗近は、スウトウは、ジュンケンは思う。
自分達は何から目を逸らし、耳を塞ぎ、言うべきことも言っていないのか?
全員が五里霧中だ。
迷っているから考える。
彼女(スイリョウ)とうまくいっていない、宗近は考える。
実際この旅は逃げの一手だ。
あんなに愛し合ったのにと、思う。
自分が粗忽で、思ったことを全て言って、やりたいようにするタイプだと言う自覚がある。
何を見ていなかったから、何に気付かなかったから、こうなったのだろうか?
いまだ答えは見えないのだ。
妻の真意がわからない、スウトウも考える。
ゆきは一体何を思い、何を伝えたいのだろう?
この旅で、自分に何を見せたいのか?
わからない……
そして、今はただ片想いの、大切な人をジュンケンも思う。
必ず1人なるさくを思うと、第1に『傍にいたい』と思う。
その気持ちに嘘はないし、故国に何のしがらみもないジュンケンは、誰より簡単にその決意をできるはずが……
軽々にそんな事を言ってはならないと、思った。
しがらみがないのに、話を聞いたとき『帰る』と思った。
理由なんてない、当たり前に思ったのなら、それもまた事実だ。
もちろんそれ以前に、さくが想いを受け入れるかの問題はあるが……
もっともっと考えねばならない。
脳筋の頭脳派は、思考の海に泳ぐ。
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