第101話 日光街道
さて、一方旅行組は?
移動が始まってすぐに、
『宗近さんに同行させて貰って良かった』と、心から思うスウトウだった。
江戸から北へ行く奥州街道は、最初の部分は日光街道と重なる。
徳川家康公が祀られている日光東照宮へ将軍たちが参拝した道であり、五街道の1つでもあり整備が行き届いている。
日光東照宮まで140キロ少し(現代換算)。
当然数日をかけて移動するはずが、なんと2日で行ってしまった。
宗近、中野は馬で、スウトウ、ゆきはかごに乗って。
かごは基本1人乗りで、前後2人の人足で担ぐのが普通だが、
「どうせならご夫婦で」と、身分の高い人用らしい2人乗りを用意された。
人足は4人。
しかも走る。
事前に早馬で手配したらしいが、各宿場町には担ぎ手が4人ずつ待っている。
宿場は21あり、その距離は10キロもないのだから、交代交代で、結構なスピードを出した。
ちなみに、ジュンケンは馬。
さすがに乗馬経験はなかった少年だが、試してみたら乗れてしまった。
ならば、かごでジッとしているよりいいと、そのまま馬を操っている。
初日は古河宿に泊まり、今は一路日光へ。
ゆきは東北の日本海側の寒村の子だ。
先祖返りの銀髪、銀目が災いし、家で疎まれ、下働きをさせられ、最終的には人買いに売られた。
スウトウでもそこまでは知っているし、いくら優しい、人の好い娘でも、自分を捨てた実家に恨みとまではいかない、けれど表現し憎い、わだかまりというべき感情を抱えていることにも気付いていた。
「寒い場所ですよ」と、ゆきは故郷を表現するが……
気温だけでない、いろいろな意味で寒かったのではと、そう思った。
スウトウは地方の小金持ち、役人の子で、生活に余裕まではなかったが、長男1人を科挙の勉強に集中させても差し支えない、そう言う家庭で育っている。
もし自分を勉強させるために、他の兄弟を食わせるために、妹の1人を売られたら……
それを当たり前と受け止めねばならない環境で、しかし、心からそれを恨むでもない、自分が体を汚さねばならなくなった、その運命ごと恨まない気性のゆきが、一体何故『里帰り』などと言い出したのか?
彼女は何を自分に伝えるつもりだろうか?
考えると不安になった。
2日目も夕暮れが迫り、一行は鉢石宿にたどり着く。
東照宮を中心とした寺社群の1つ前の宿場である。
今のところ、倍速で移動している一行だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます