第99話 来訪

 ジュンケンのお姉さんって……

 『すごくキレイな人なんだな』と、内心さくは舌を巻く。

 初対面の時は夜だったし、父親の具合が最悪で自分の精神状態も良くなかったので、気にも留めず流していたが……

 絶世の美女、と言うやつだ。

 町で1度だけ見かけたことがある、西洋人の光る髪のように煌めく、真っ赤な頭髪。深く澄んだ、宝石のような緑の瞳。

 整った顔立ちで、表情があまりないことも手伝い、ミステリアスな、他者を圧倒するような美少女だった。

 明るくなり始めた朝の光の中、

 「……?」

 言葉が出ないさくを、本人だけは不思議そうに見返してはいたが。

 弟だという、ジュンケンと全く顔立ちが違う。

 髪の色、瞳の色以外にも、ジュンケンの顔立ちは整っていても愛嬌があるというか、可愛い系だ。

 キレイすぎる姉の方は、好きものすら怯えて手を出しにくい迫力で。

 多分、

 『血はつながっていないんだろうな』と思ったが、さすがに訊くのが憚られた。

 家の前でごちゃごちゃしているのに気付いたのだろう、

 「おい!小僧か?」と、父親が声を上げた。

 一時危篤状態だったさくの父は、布団の上に身を起こし食事もとれる程度に回復、小康状態を保っている。

 距離があるので顔は覆わないまま、ゲツレイが玄関から覗き込む。

 あばら家の1番奥……と言っての狭い家だが、そこにいた父親に声をかけた。

 「弟は昨日から仕事で出かけている。私は代わりで来た。」

 「ほう?」

 「姉だ。」

 「姉さんだぁ?まったく似ていないじゃないか?」

 素直に訊くと、

 「血はつながっていないから」と、さっき気を使ったのが馬鹿みたいに、ゲツレイもそのまま答える。

 「偶然国で会った。日本に行こうと言うことになって、2人で密航した。大使のお嬢さん……今の私の姉だが、この人が私とジュンケンを『妹と弟にする!』と言って、それで姉弟ということになった。」

 サラリと結構すごいことを言った彼女に、

 「ふえぇぇぇ。波乱万丈だなぁ」と、父親もある意味想像を超えたせいなのだが、雑にまとめる。

 「ところで、さくさ……さく。」

 「はい?」

 急にゲツレイが向き直る。

 「私には、弟のような畑仕事の経験も、大工仕事の経験もない。あまり役に立たないと思うが、申し訳ない。」

 いやいや、役に立たないはずがない。

 父親が危篤の時もわざわざ付いて来てくれて、苦痛をやわらげその後回復していく、足掛かりを作ってくれた。

 強い人だ。

 「いえいえ、そんなこと‼」

 『ありませんよ』と言い切る前に、

 「うわぁっ‼なんで女の子がいるの?」と、知らない誰かの声がする。

 さくとゲツレイが、同時に声の方を見た。

 家の少し手前の道端に、帯刀した羽織袴の青年が膝から崩れ落ちている。

 「うわっ‼大丈夫ですか?お侍さん‼」

 反射で駆け寄ろう落としたさくを、

 「待て‼」と止める、ゲツレイ。

 距離もあり、直接話したわけでもない彼女が、何故それに気付いたか定かではないが……

 「彼もおそらくお父上と同じ病気だ‼顔を覆え‼」


 ……


 ほら、役に立った。

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