第97話 旅は道連れ世は情け

 「え?ゆきさんの里に行くんですか?なら、私達と行きませんか⁉️」

 急に言い出した宗近に、もう彼が考えなしに思い付くまま行動する人だと気付いている。

 スウトウが渋い顔をした。

 大使に帰国の件を聞いた、その日の夜のことである。

 夕食を食べ、気分が悪いと自室にこもったスイリョウを除き、一同が大使館1階の広間に集まっていた。

 妻の願いを叶えるために、旅と休暇の件を大使に願い出ると、宗近が横から乱入したのだ。

 ……

 って言うか、ここ、清国大使館だよね?

 なんで当たり前にいるの?宗近さんと中野さん。

 正直トラブル(の素)は避けたかったが、ゆきの里の遠さを聞いて、揺らぐ……

 「ゆきさんの里って、奥州街道を行った先ですよね?」

 「はい。途中から小道に逸れて、日本海に出ます。」

 「行きはどのくらいかかりました⁉️」

 「同じような売られる娘を集めながらだったから……

 あちこち寄りながら、20日くらい……」

 「20日⁉️」

 日本は、馬車輸送が発展しなかったから、基本移動は徒歩である。

 寄り道せずに歩いたとしても……

 半月はかかるだろう。

 「私の藩も奥州街道をどんどん進んで、小道に逸れた山の中です。

 跡継ぎとはいえ藩主ではないですから、大名行列の必要はないし、普通の人より金もコネもあります。

 半分、とまではいかなくても、かなり早く着けますよ‼️」

 断ることが……

 出来なくなった。

 「しかし、平良殿と中野殿、カク君とゆきさんでは道中心配だなぁ?

 ジュンケンか、ゲツレイを連れていけばどうだね?」

 最近『用心棒扱い』を隠さなくなった大使が言うと、

 「ゲッ‼️」と、あからさまに嫌な顔をするゲツレイ。

 本当に感情が表に出るようになった。

 そして、本当に発想が『おぼっちゃん』だが、最近ゲツレイから当たりが強いこと、彼女だと思っているスイリョウから何故か距離をおかれている居心地の悪さから、いつもは無視していた藩の用事をこなす体で逃避する予定だった宗近としても都合が悪い。

 「俺も……さくの家のことがあるし……」

 乗り気でないジュンケンに、

 「さくさんの家には私が通おう。お父上も今は安定しているのだろう?君が行ってくれないか?」と、ゲツレイが水を向けた。

 「うーん……」

 少し考えて、

 「わかった」と、ジュンケンは頷いた。

 さくの父親も、今日明日と言う状況を脱し、起きられるまでに回復、小康状態を保っている。

 任せること自体は、相手がゲツレイなら不安など無い。

 彼も少し、考えたいこともある。

 「なら、準備もありますから、出立は3日後ってことで‼️」

 スウトウ、ゆき、ジュンケン。

 宗近、中野で、東北旅行?が決定する。


 

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