第88話 高すぎるハードルと決意
「あたしは『大使の出戻り娘』って言われてるのは、知ってるよね?」
「ああ。」
「昔結婚してたんだよね?」
スイリョウの話は、どうやらそこまで遡るらしい。
「本当なら思い出したくもないんだけどね」と、渋い顔のスイリョウ曰く、
「あたしも昔はおとなしかったし、親父も考えなしだった。あたしの嫁ぎ先は最悪で、まあ、2つの意味で奴隷だったね。」
奴隷?
2つの意味って?
今は、高級官僚の娘で、好き勝手に生きているイメージのあるスイリョウに、『奴隷』と言う表現は似つかわしく無い。
奴隷は、対等な条件でなく無理やり働かされる『労働奴隷』と、もう1つは?
『性奴隷』だと気付いた時、
「‼」
心臓を鷲掴みにされるような、痛みを覚えたジュンケンだった。
「で、当時2回ほど流産してる。安定する前にこき使われたし、義理の親父には蹴られてるし、ね。」
最悪でも過ぎた事で、吐き捨てるようでも『言える』スイリョウより、いや、この世の誰より怒ったのはゲツレイだ。
「姉さん。」
押し殺した言い方が怖い。
変なオーラが立ち上っているし、大好きな人をいたぶられて、この鋭過ぎる小刀が黙って耐えるはずもない。
「取り合えず、そいつら教えて。皆殺しにしてくる。」
怖い、怖い。
達人のマジ切れ、怖過ぎる。
ゆらりと立ち上がり、真面目に清まで駆けていきそうな少女を、
「わーっ‼ゲツレイ‼大丈夫、大丈夫だから‼」と、必死で宥めるスイリョウ。
「もう片が付いてるし‼
親父が結構えげつない刑務所に叩き込んだから、絶対今は生きてないし‼」
脱線しまくって話が進まない。
まだ怒り狂っているが何とか座ってくれたゲツレイを確認し、やっと願いを口にするスイリョウ。
「そう言うわけだから、もう出来るはずもないと思っていて、でも縁があって出来た子なら産みたい。
あたしはこの子の親になりたい。」
スイリョウの願いは単純だ。
子供は産みたい。
だから流すわけにはいかないし、宗近にも頼らない。
この『頼らない』を聞いた時、
「えーっ‼それはないだろう‼」と、つい叫んだのはジュンケン。
男としての責任云々、童貞小僧がわめいても意味はないが、そういう意味でなく、単純に憐れと思った。
頼って貰えない、宗近の事を。
「ああ、いいのいいの」と、スイリョウは笑う。
「あいつは一応『藩』?とか言うのの偉い人だし、幕府もなくなって少しでも自分と家と、そしてそこにいる人を守ろうと動いている。
これ以上は負担でしかないよ、あの馬鹿さ加減だし。」
カラカラと笑い飛ばすから、それ以上は言えなかった。
「2人に打ち明けたのは、まず単純に、あたしの体が流しやすいこと。2回も流産してるから、またいつどうなるか分からない。気を付けるけど、万が一の時誰も知らなければ手遅れになるから、ね。」
「あ……」
「うん。」
「だから、知っておいて欲しかった、それだけだよ。
あと、ただもう1つ問題があって……」
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